写真はイメージ(GettyImages)
写真はイメージ(GettyImages)

 今や、約5.5組に1組が不妊治療の検査や治療を受けたことがある時代。今年4月から不妊治療が保険の適用対象になったことで、より治療の間口が広がった側面もある。こうした中、不妊は未だ当事者が「身近な人にこそ話しづらい」と悩むテーマだ。

【写真】男性不妊をテーマに小説を書いた人はこちら

 センシティブな内容であるがゆえに、誰にも言えない深い悩みを抱え、孤独の中に佇んでいる人は依然として多い。こうした当事者のさまざまな“孤独”を掘り下げながら、不妊治療の今を探る短期連載「不妊治療の孤独」。第一回前編は、妊活したいけれども「性交ができない」と悩む37歳女性の実態から――。

*  *  *

「妊娠の入り口にも立てていないことを、ずっと誰にも言えませんでした」

 東京都在住の会社員、A子さん(37)。3年間の交際期間を経て、3歳年上の夫と結婚したのは6年前、A子さんが31歳、夫が34歳の時のことだ。自他共に認める仲良し夫婦で、互いを信頼し合っている。週末には二人で外食を楽しんだり、一緒にランニングしたり、どこにでもいる幸せそうな夫婦だ。

 夫婦はある一点だけ、人に言えない悩みを抱えていた。それは、「性交ができない」という悩みだった。

 身体的に何か問題があるわけではない。性欲もあるし、スキンシップも嫌いじゃない。問題は、“挿入”の一点のみ。それ以外、つまり挿入を伴わない性交であれば、何の問題もないのだ。

 具体的には、こんな具合だ。A子さんは、挿入に対する恐怖感が強く、いざという時に体がこわばって萎縮してしまう。反射的に足に力が入ったり、股が閉じてしまうこともしばしばで、どうしても力を抜いて臨めない。

 夫からどれだけ「大丈夫だよ」「リラックスして」と優しく声をかけられても、「絶対に痛いに違いない」という思い込みはどうしても拭えず、それが原因で、実はこれまで挿入を伴う性交は誰とも経験がない。

 A子さんが怖がることで、夫との性交も、自然と途中でやめることになる。何度も挑戦はしてきたが、うまくいかないことが続き、「そのうちできるようになるよ」と辛抱強く待ってくれていた夫も、いつしか「無理にやらないといけないことじゃないから」と、挑戦から遠ざかるようになっていた。

著者プロフィールを見る
松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

松岡かすみの記事一覧はこちら
次のページ
夫婦ともに子どもが欲しい気持ちが強まり