北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

 みんな、うすうす気が付いていた。本当はどこかでわかっていた。それでも決定的に追いつめ、膿(うみ)を出し切ることまでできなかった。今、大変な勢いで、旧統一教会と自民党議員らとの長い蜜月が明らかになりつつあるが、本来ならばもっと早く、強く、深く、メディアが追いつめるべきことだったのではないかと悔やまれる。膿を出し切っていれば日本の民主主義がこれほど危うくなることもなかったかもしれず、そもそも安倍さんも死ぬことなどなかっただろう。

 安倍さんの死からちょうど1カ月が経った。2年前に静岡・御殿場の虎屋のカフェに行ったことを思い出す。もともとは1969年に岸信介氏の自邸として建築されたものだ。5700平米の敷地に、当時、岸家が暮らしていた屋敷がそのまま残されている。水面がきらめく池、様々な樹木が完璧に配置された美しい庭園の豊かさに圧倒されたものだ。私は友人たちと、「この庭で安倍さんは遊んでたんだね」と話しながら庭を散策していたのだが、一人がボソリと言ったことが忘れられない。

「なんで、あの人たち、こんなにお金を持ってるの?」

 なんででしょうね……、なんてことを私たちは日本史をひもときながら勝手なことを言い合って話し合ったものだ。でも、本当になぜ、と今改めて思わずにはいられない。なぜ、安倍さんの家はあれほどの財産を持っているのだろう。政治家というのは、そこまで「もうかる」仕事なのだろうか。そして財産も、人脈も全て、「家業」のように親から子に継いでいくものなのか。

 冒頭の週刊朝日の記事で、安倍さんはUPFの会合で「岸信介元総理大臣のお孫さん」と紹介されている。50代にもなって公の場で「誰かの孫」と紹介される人生があるのか、と庶民の私などは違和感しかないが、それでもそういう世界を、安倍さんは生きてこられたのだろう。岸信介の孫として、岸洋子の息子として、安倍晋太郎の息子として、戦前から脈々と継がれてきた家業を背負うことが宿命であるかのように、生きてこられた。岸信介氏らが切望した「国家秘密法」も、安倍さんが総理の時代に「特定秘密保護法」として成立させたが、これも安倍さんにとっては家業としての仕事だったのかもしれない。

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ファミリービジネスとしての政治