佐野元春さん(写真:アライテツヤ)
佐野元春さん(写真:アライテツヤ)

 混迷を深める現代の社会。誰もが暗く、硬い表情で、口を開けば批判や疑問の言葉を発してしまいがちなこの時代に、「僕は音楽において“愉悦”を何より優先している」と語る佐野元春。しなやかに、そして“カッコよく”、未来のビジョンを僕らに掲示し続けてくれる佐野さんの言葉を、今こそ聞きたいと思った。

【写真】第一線で活躍し続けている佐野元春さん

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 佐野元春&THE COYOTE BANDは7月2日、東京・水道橋のTOKYO DOME CITY HALLのステージに立っていた。ライブの前半は、今年40周年を迎えたアルバム『SOMEDAY』、大瀧詠一、杉真理とのユニットによる『NIAGRA TRIANGLE vol.2』の楽曲が中心。中盤以降は、今年されたアルバム『ENTERTAINMENT!』『今、何処 (Where Are You Now)』の楽曲が披露され、アンコールでは名曲「サムデイ」も演奏されるなど、会場に足を運んだ観客(40代、50代を中心に、20代前後の若い人の姿も)を熱狂させた。

■コロナ禍での音楽活動

 この日は、約3年半ぶりに開催された全国ツアーの最終日。佐野は「マスク着用、声を出せないという制約のなか、本当に喜んでもらえるのかな?という心配も若干ありましたが、みんなが新しいやり方で楽しんでくれていることを実感しました」と安堵した様子。さらに「『I’m in blue』『マンハッタンブリッジにたたずんで』などは80年代の楽曲。当時のバンド、ザ・ハートランドをリスペクトし、ザ・コヨーテバンドのメンバーが楽しんで演奏していることは大きな喜びです」と胸を張った。

 2020年からはじまったコロナ禍によって、世界中のアーティストと同じく、活動の停滞を余儀なくされた佐野。ライブやツアーは思うようにできなかったが、創作意欲はまったく衰えることなく、バンドメンバーとセッションを重ねながら楽曲を作り続けてきた。今年4月にアルバム『ENTERTAINMENT!』、7月にはアルバム『今、何処 (Where Are You Now)』を発表。1年に2作のフルアルバムをリリースするのは、40年を超えるキャリアにおいても初めてだ。

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森朋之

森朋之

森朋之(もり・ともゆき)/音楽ライター。1990年代の終わりからライターとして活動をはじめ、延べ5000組以上のアーティストのインタビューを担当。ロックバンド、シンガーソングライターからアニソンまで、日本のポピュラーミュージック全般が守備範囲。主な寄稿先に、音楽ナタリー、リアルサウンド、オリコンなど。

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