「どういう状況になろうと、そこ(清宮の打席)で代えようと思ってました。ノーアウト満塁は想定してなかったんですけども、よく開き直って全力で行ったと思います。気持ちは入ってたけど、すごく冷静にしっかり投げ込めたのかなと思います」

 試合後、20球に及ぶ田口の力投をそう評したのは高津臣吾監督である。最大のピンチを切り抜けたヤクルトは、延長11回に飛び出した4番・村上宗隆の2ランでサヨナラ勝ちを収め、その後も快進撃を続けて4年ぶりに交流戦王者となるのだが、この田口の“火消し”がなかったらどうなっていたか。

「無死満塁からの火消し」ということでいえば、古くからのプロ野球ファンが思い出すのは1979年の日本シリーズ第7戦での広島・江夏豊の「江夏の21球」や、1993年ペナントレース終盤の優勝争いにおけるヤクルト・内藤尚行の「ギャオスの16球」だろう。そうした歴史的な快投に、この日の「マリモ(田口の愛称)の20球」を重ね合わせた向きも多かったはずだ。

 実は今シーズン、田口が満塁のピンチを切り抜けたのはこの試合に限らない。4月2日のDeNA戦(神宮)で1対1の6回1死、4月6日の中日(神宮)では2対1の7回無死、交流戦明けの6月18日の広島戦(神宮)でも5対4の7回2死と、僅差のゲームのフルベースの場面で登場しては、ことごとくしのいでいる。まさに“エスケープ・アーティスト”と言っていい。

 もっとも、それだけが田口の価値ではない。ヤクルトの“勝利の方程式”の一角を担う今野龍太が、6月24日のニッポン放送『ショウアップナイタープレイボール』に出演した際にブルペンのムードメーカー的な存在は誰かと問われ「やっぱり田口さんですかね」と話したように、持ち前の明るい性格でチームの盛り上げ役を担う。

 さらに試合に勝ってグラウンドを去る前には、ファンから「勝利の舞」と呼ばれる独特のパフォーマンスでスタンドを沸かせ、SNSではチームメイトの素顔を積極的に投稿するなど、プレーのみならずさまざまな手段でファンを楽しませている。

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防御率以外でも“際立つ数字”