錦鯉
錦鯉

 日本テレビの朝の情報番組『ZIP!』の中で、お笑いコンビ・錦鯉の半生を描くドラマ「泳げ!ニシキゴイ」が放送されることが発表された。初回放送は7月19日である。

【写真】ビートたけしの著書『浅草キッド』映像化の脚本・監督を務めた芸人はこちら!

 漫才の祭典『M-1グランプリ』は、現在のお笑い界で注目度ナンバーワンのイベントである。芸人たちが1年かけて練り上げてきた極上の漫才が楽しめるだけではなく、真剣勝負に挑む彼らが織り成す人間ドラマの要素も魅力の一つだ。

 そして、近年の『M-1』の中でも、錦鯉の優勝は最もドラマティックなものだった。ボケ担当の長谷川雅紀は50歳。若手芸人中心の『M-1』出場者の中では飛び抜けた芸歴と年齢を誇る。頭髪は薄く、不摂生がたたって歯は9本抜けている。若い頃から芸人を続けながらもずっと芽が出ず、バイトを続けて極貧生活を送ってきた。相方の渡辺隆も『M-1』優勝当時は43歳(現在は44歳)。決して若いとは言えない年齢だ。

 そんな彼らが、フレッシュな若手芸人をごぼう抜きにして、悲願の優勝を成し遂げた。優勝決定の瞬間、2人は涙をこぼしていたし、審査員の富澤たけしと塙宣之も思わずもらい泣きしていた。『M-1』の歴史に残る劇的な優勝だった。

 そんな彼らの半生がドラマになるというのは、企画としては斬新だが、十分納得はできる。中年芸人の人生大逆転の瞬間は、それだけでドラマにする価値がある内容だからだ。

 近年の映像業界では、芸人の半生をドラマ化するような企画がたびたび行われている。Netflixでは、ビートたけしの自伝をもとにした『浅草キッド』、ジミー大西の半生を描いた『Jimmy~アホみたいなホンマの話~』が配信されているし、2021年にはフジテレビで志村けんの芸人人生を描いた『志村けんとドリフの大爆笑物語』が放送された。

 芸人の実体験やエピソードをもとにした再現ドラマを作るという手法は、バラエティ番組でもたびたび見受けられる。日本テレビの特番『誰も知らない明石家さんま』では、明石家さんまに会った一般人の体験談や、さんま自身の過去のエピソードがVTR化されていた。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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芸人たちの「伝説」は人々の記憶に刻まれている