廃校での試作品づくり(写真提供:「悟空のきもち THE LABO 」)
廃校での試作品づくり(写真提供:「悟空のきもち THE LABO 」)

 この「さんぽセル」、商品の開発から発売までは順調だった。子どもたちと開発を担当したのは、大阪市の販売会社である「悟空のきもち THE LABO」。 THE LABOは、全国の小学生から大学生までの子どもたちが、何か新しい試みに挑戦する機会を提供する場でもある。21年夏、遊び場として子どもらに開放されていた栃木県日光市の廃校にラボのメンバーである大学生が視察で訪れた。

「ゲーム機買ってよー」

 遊んでいた子どもたちが、冗談交じりに声をかけてきた。ゆうや君とれいや君ら、地元の小学生たちだった。

 大学生はこう返事をした。

「じゃあ、おカネを自分たちで稼いでみたら」

 ヒントは、シンプルな言葉のみ。

「困っていることは、商売になる」

 子どもたちの口からすぐに、こんな困りごとが出てきた。

「ランドセルが重くて困っている」

 集まったのは、小学3年から6年生の6人ほどの子どもたち。廃校にあるガムテープや椅子などを使って、すぐに「試作品」を作ってしまった。れいや君が1年前の夏を、こう振り返る。

「ゆうやが、椅子の座るところを取り外して、タイヤだけにしてランドセルを置くことを思い浮かべたんだ。そうしたら、他の小学生の友だちが、椅子の足とランドセルに紐をひっかけて歩いてみたんだ」

 子どもたちは、ガムテープなどでパーツをくっつけて試行錯誤しながらも、試作品を作った。

「まず、何がいいアイディアでどうすれば、いい商品を出せるか考えるところが、大変だった」(れいや君)

 神奈川県の江の島のラボを拠点にする大学生メンバーが、小学生のアイディアを具現化して試作品を作った。途中で耐久性に問題があることが判明し、発売が延期されるといった事態もあったが、試行錯誤を繰り返して「さんぽセル」の開発は進んだ。自動車の安全部品などの制作を手がける栃木県内の企業に職人に協力を依頼し、商品の強度を高めた。

 大学生メンバーが手分けして、500キロの耐久テストも行った。荷物を入れて7キロほどの重量にしたランドセルを『さんぽセル』の試作品に装着して歩くのだ。開発の中心メンバーのひとりある医大生の岡村連太郎さん(21)が、苦笑しながら振り返る。

「夜中に大学生がランドセルを引いて歩くものですから、何人ものメンバーが警察官の職質にあいました」 

 小学生メンバーが試作品を試し、改良が重ねられた。岡村さんは、「通常5kg程度のランドセルを、さんぽセルを使うことで9割軽く感じることができる商品に完成した」、と話す。重さも、わずか280グラム。消耗するタイヤ部分の交換も可能だ。今年4月、5940円(税込み)で発売にこぎつけた。小学生のメンバーも岡村さんら大学生メンバーも、満足感と期待に胸を膨らませた。

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