個性派俳優・佐藤二朗さんが日々の生活や仕事で感じているジローイズムをお届けします。今回は「前衛的なテーマ」に取り組むという。さあ、最後までついてこられるか。

*  *  *

 ない。

 ないのだ。

 書くことが。

 ありがたいことに、書く場を頂いてるわけだから、そんなことを言っていてはいけないと重々承知はしているのだが、今回は本当に、書くことがない。

 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の(僕の)撮影は終わり、ある映画の撮影をしたり、もうすぐインする作品の準備をしたりしているが、いずれも情報解禁は当然まだまだ先で、書けない。

 脚本の取材や執筆も日々しているものの、これまた、内容をいま公にするわけにはいかない。

「歴史探偵」や「マチスコープ」の撮影や収録もしているし、「99人の壁」も次の収録に向けスタッフが日々準備に余念がないが、いずれの番組に関しても、すでに当コラムで書いてしまっている。

 散歩も晩酌も日課のようにやっているが、これまた今さら何を書いていいか分からない。

 また、韓国や台湾での公開も始まった映画「さがす」も、配信中の映画「はるヲうるひと」も、このコラムで幾度となく書いてきた。

 そんな、書くことがない俺が、書くことがない言い訳で巧妙に字数を稼ぎながら、今、一体何を考えているか。

 実は、

 何も考えていない。

 いま80人くらいの読者諸兄が脱落したであろう。

 過去に「激しい寝不足で意識を失いかけながら文が書けるのか」という実験的コラムや、「晩酌で酩酊するさまを実況形式でお伝えする」という極めて野心的なコラムを発表してきた。

 今回は、「書くことがないのにコラムを書けるのか」という前衛的なテーマに取り組みたい。

 いま90人が脱落した。

 中身のない文を書かせたら右にも左にも出る者がいない俺だ。今回は思い切り、何の中身もない、ナニモナイ、文を書こうと思ったのだ。5秒前に思ったのだ。マジで恋する5秒前なのだ。正確な表記は、「MajiでKoiする5秒前」なのだ。してねえな久しく。MajiでKoi。ま、もちろん妻にはずっとMajiでKoi、だけどな。

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佐藤二朗

佐藤二朗

佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家、映画監督。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や映画「幼獣マメシバ」シリーズの芝二郎役など個性的な役で人気を集める。著書にツイッターの投稿をまとめた『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)などがある。96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がけ、原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)がBD&DVD発売中。また、主演映画「さがす」が公開中。

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