小学5年生と3年生の娘を持つ父親は、毎年、「父の日」を家族にスルーされ、切ない気持ちになっています。父親だって感謝されたいのが本音。「論語パパ」こと中国文献学者の山口謠司先生が、「論語」から格言を選んで現代の親の悩みに答える本連載。今回の父親へのアドバイスはいかに。

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【相談者:11歳と9歳の娘を持つ40代の父親】

 小学5年生と3年生の2人の娘を持つ40代の父親です。毎年、「母の日」には娘たちが夕食を作ったり、妻にプレゼントを渡したりしていますが、「父の日」には何ももらえず、感謝の言葉もありません。今年の「父の日」も何もなさそうです。我が家に限らず、最近は「父の日」が見過ごされがちですが、なぜでしょうか。

 自分は休日にゴロゴロしないし、酒もギャンブルもやらずに、毎日遅くまで妻と娘たちを養うために働いているのですが、全く報われません。見返りを期待するのはよくないとは思いますが、妻と娘たちの態度に疑問を感じますし、寂しいものです。心の持ちようを教えてほしいです。

【論語パパが選んだ言葉は?】

・「人の己を知らざるを患(うれ)えず、其(そ)の不能をを患(うりょ)うるなり」(憲問第十四)

・「朽ちたる木は雕(ほ)るべからざるなり。糞土の牆(かき)は、ぬるべからざるなり」(公冶長第五)

【現代語訳】

・「自分が人から分かってもらえないといって悩むのではなく、自分がまだうまくできていないということを悩むようにする」

・「ぼろぼろになった木に彫刻はできない。悪い壁土で作った垣根は、どう塗りなおしても手に負えない」

【解説】

 お答えします! 相談者さん、つい腐ってしまいそうなときは孔子のこの言葉を思い出してください。

「人の己を知らざるを患(うれ)えず、其(そ)の不能を患うるなり」(憲問第十四)

 訳すと、「自分が人から認められないというのは悩みではない。自分がうまくできていないことこそが悩みである」という意味です。これは、2500年前の思想家・孔子がとても大切にしていた倫理で、弟子たちとの言行録である『論語』には、これと同じ趣旨の言葉が4度も繰り返されています。

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山口謠司
山口謠司

山口謠司(やまぐち・ようじ)/文献学者・中国学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞。『ステップアップ0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など著書多数。母親向けの論語講座も開催。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族

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