受験生専門外来「本郷赤門前クリニック」の吉田たかよし医師(画像=本人提供)
受験生専門外来「本郷赤門前クリニック」の吉田たかよし医師(画像=本人提供)

 もっとも、受験勉強期から子どものストレスは徐々にたまっている。その状態で「勉強でちやほやされないストレス」が重なるので、最後は「大爆発」を起こし、うつを発症してしまうのだという。

「ストレスも花粉症などのアレルギーと同じように“許容量”があります。一定量のコップにストレスがたまっていくと、あふれたところで症状が出てしまう。難関校入学直後の挫折は、そのきかっけになりやすいのです。自分の『頭のよさ』が否定されたことで、まだ13歳という若さで、アイデンティティーを見失ってしまう受験エリートは少なくありません」(同)

自己愛を肥大化させてしまう母親

 吉田医師によると、子どもが「自己愛」を肥大させてしまうのは、母親の影響も大きいという。

「難関中学を狙う子どもの母親は、わが子の頭の良さを中学受験で証明しようとする人が多い。母親自身の存在価値を、子どもの成績に置き換えてしまう人もいます。そうなると、母親はプロセスではなく『いい結果』だけを褒めてしまう。そんな母親の偏った期待に応えようとしてきた子どもは、自分の価値は頭のよさであり、特別な才能の持ち主だ、というゆがんだ自己認識を強めてしまうのです」

 さらに、いい成績をとるためならば何でもやってくれる母親の姿を見ると、子どもは「いい成績さえ取れば親は何でも思い通りになる」という勘違いをしてしまうという。

「次第に、子どもは王子様・お姫様で、母親はその家臣という関係性になってしまう。もちろん受験期には母親のサポートは必要で、勉強環境を整える手助けは悪いことでありません。ただ、家臣と化した母親が子どもに尽くし、成績ばかり褒め続けることで、子どもの自己愛はますます過剰に肥大してしまうのです」

 そして肥大化した「自己愛」が否定されたとき、その不満は親に向かってくる。

 進学校で成績が振るわないのは自分の努力不足ではない。なぜなら自分はもともと頭がよく、「特別な存在」だからだ。じゃあ、この原因をつくったのは誰か。自分の“家臣”である母親のせいだ――こうした間違った思考サイクルになってしまうという。

 そうなれば、次第に母親への暴言がエスカレートし、暴力へと移行することもある。男児の場合は母親が骨折するまで暴れるケースや、お嬢様学校に入学した育ちの良さそうな女児が家具を壊すといったケースもあるそうだ。

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「受験後うつ」のわかりやすい兆候とは