民主党時代の石井一さん/2009年撮影
民主党時代の石井一さん/2009年撮影

 自治相(現総務相)や国家公安委員長、民主党の副代表などを務めた石井一さんが6月4日午後、東京都内で倒れ、搬送先の病院で亡くなった。87歳、死因は急性心不全という。冤罪(えんざい)事件の裁判の証人やハイジャック事件の交渉役など、大きな事件の節目で重要な役割を果たした。

【写真】検察のたてた“ストーリー”を崩した「石井手帳」

「絶対にありえません」

 石井さんがそう声をあげたのは、2010年3月4日、大阪地裁の法廷だった。

 厚生労働省の官僚、村木厚子さんが、虚偽有印公文書作成・同行使の疑いで大阪地検特捜部に逮捕・起訴された裁判。

 石井さんの証言が、大きく裁判を動かした。

 石井さんの秘書だったこともある、K氏が中心になって設立した団体に、村木さんが偽の公的証明書を発行し、郵便料金の割引制度を不正に使用させたという筋書きだった。

 K氏は自身の公判で、「石井先生から厚生労働省に口利きをしてもらった」

「村木さんから、表彰状をもらうような感じで公的証明書をいただいた」

 とまで証言していた。

 検察側の主張は、K氏が石井さんに厚労省への「口利き」を依頼したとされるのは、「2004年2月25日午後1時ごろ、議員会館」としていた。

 それを一気に覆したのは「石井手帳」だった。

「私はこれまで手帳に自分の記録をきっちりつけています。その日は、千葉県成田市のゴルフ場に行き、同僚の議員やワイフと一緒にプレーしていた。終わった後は、研究会が午後6時からあり、それに参加。議員会館には行っていない」

 と検察立証を明確に否定。法廷で示された「石井手帳」には、

<Gグリスサンド>

 とゴルフ場の名前やスコアが記されていた。

 村木さんは、証拠に「石井手帳」を提出。検察が村木さんへの「口利き」の入り口として立証した、石井さんとK氏の面会が完全に崩された。

 ダメ押しとばかりに「口利き」の相手、村木さんに石井さんは、

「あんたともはじめて会うよな」

 と声をかけ、村木さんも笑顔で答える。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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