富山で行われたフラワーデモ
富山で行われたフラワーデモ

作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、強制性交等致傷罪が問われた裁判の無罪判決について。

【写真】北原みのりさんはこちら。

*   *  *

「迷いなく話すことが真実になる」

 強制性交等致傷罪が問われた裁判で、原告になった女性による言葉だ。

 20代の被告男性は女性の靴の色や、女性の言葉やしぐさを明確に「覚えていた」。明瞭に迷いなく堂々と語る男性の言葉は、信頼できる語りとして受け取られただろう。一方、原告女性の証言はあいまいだった。そもそも、男性の顔を覚えていなかった。裁判所で再会して初めて、男性の身長がどのくらいかも知ったくらいだった。記憶に真摯であろうとするあまり、「たぶん」と語る原告の言葉は「あいまい」だった。それは、2年前の夜を鮮明な記憶としてハッキリと語る被告の言葉と対照的な印象を裁判官たちに与えたのかもしれない。

 5月13日、富山地裁で、強制性交等致傷罪に問われていた25歳の男性に無罪判決が出された。裁判官は「女性の証言は不自然な点や記憶があいまいな部分が複数認められるなど信用できるとはいえず」とした。これに対し、裁判を傍聴していた支援者たちが、性被害者の実態をあまりに理解していない判決だとして、抗議の声をあげ、「『性暴力のない社会』をめざす会」を富山市内で立ち上げた。6月5日は富山駅前で緊急のフラワーデモが行われ、私も参加した。「判決の後はあまりに悔しくて涙が止まらなかった」という支援者の一人から、法廷での様子を聞いた。

 それは2年前の11月に起きた。被告男性との出会いは、某職種に関わる者たちのオンライン勉強会だったという。オンラインで数度話した仲間たち数人がリアルで集った際、終電を逃してしまったため被告男性が予約していたホテルに数人で始発を待つことにした。男性とリアルで会うのは初めてだった(だから顔も覚えておらず、身長も知らなかった)。寝不足が続いていたこともあり女性は部屋で寝てしまい、気づいたときには仲間たちは部屋を出ていた。2人きりになった男性から性行為を強いられ、性器が損傷した。強制性交等罪ではなく、致傷が加わったため、これは裁判員裁判として問われた。

著者プロフィールを見る
北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

北原みのりの記事一覧はこちら
次のページ
被告男性の堂々とした主張