緑の宝石のような目のモモちゃん
緑の宝石のような目のモモちゃん

 飼い主さんの目線でのストーリーを紡ぐ新連載「猫をたずねて三千里」。今回は、大阪府在住の30代の会社員、良江さんに愛猫のお話を伺いました。結婚と同時に夫が実家から新居に連れてきたシニアのサビ猫。最初は警戒していましたが、徐々に“新たな家族”に馴染んで仲良くなります。でもなぜか抱っこだけはさせてくれない。そんななか、猫に病気が見つかり……。猫が心に秘めていたであろう“かつての家族”への思いに胸が熱くなります。

【写真】愛しい姿、思い出は永遠に

* * *

 サビ猫のモモは、結婚した時に夫が実家から連れてきました。2013年1月のことです。猫にとって環境の変化は大変ですが、新居に連れてきた理由があります。

 モモは、幼い時に夫の母と弟に保護された猫。母のことが大好きだったのですが、私たちの結婚の2年前くらいに、その母はガンで亡くなってしまったのです。

 その後、夫の弟が寮で暮らすことになり、猫をどうするかということに。夫の家にはもう一匹猫がいて、忙しい夫の父が面倒を見るのも大変で、モモは夫が引き取り、もう一匹は別に暮らす夫の妹が引き取ることになりました。

 私は結婚前にも実家でモモに会っていましたが、初めてあいさつした時にシャーをされ、2度目に隠れられて、「嫌われた!」とショックでした。

 そうした“距離感”と一抹の不安があるまま、モモと夫との新婚生活が始まりました。

コロコロにハマり、その後ブラッシングも大好きに
コロコロにハマり、その後ブラッシングも大好きに

■お世話係として認めてもらった

 同居初日は、やっぱり威嚇されました。私がごはんとトイレ掃除の担当となり、様子を見ていると、2、3日目からどうにかフードを食べ始めました。

 1、2週間するとシャーが減り、「お世話係として認められたのかな」とうれしかったです。

 モモはどんどん家にも慣れて、3階建ての室内を探検するようになりました。階段はお手のもの。12歳でも足腰は丈夫で元気でした。お風呂場に入り、洗面器のお湯を舐めたので、「水よりお湯が好き」とモモの好みもわかってきました。

 コロコロでなでられたり、お尻を手でトントンと優しく叩かれるのも好きで、「やってー」と近づいてきてトントンすると喜びました。2カ月もするとお布団にひっくり返りました。いったん心を許すと甘えん坊。そしてモモは、すごく愛情深かったのです。

布団にごろん、気持ちよさそうなへそ天
布団にごろん、気持ちよさそうなへそ天

 モモが家にすっかり馴染んだ頃に、私は赤ちゃんを授かったのですが、体調がすぐれない日が続きました。じつは持病があり、ハイリスクな出産でした。でも一階で昼寝をしているとモモがそっと添い寝をしてくれて……とっても心強かったです。

 それでもなぜか、側にいるのに膝には乗ってくれません。抱っこは絶対ダメ。そこだけは頑なにお断りされました。夫に聞くと、昔は夫の母に甘えて、膝に前足をかけるようにして抱っこをせがんだそう。モモにとって、抱っこは特別なようでした。

昼間は一階で赤ちゃんを見守り、夜はパパと寝ていました
昼間は一階で赤ちゃんを見守り、夜はパパと寝ていました

■見事なベビーシッターぶりを発揮

 2013年11月に息子が生まれました。私の体調のせいで、ちょっと早まった出産でした。

 モモも、「赤ちゃん」との暮らしは初めてです。新生児の頃は部屋を別にしたけど、「よろしくお願いします」とあいさつをして、少しずつ会わせていきました。

 モモは息子をすぐに受け入れました。オギャーと泣くと私のもとに飛んできて、「赤ちゃん泣いてるよ」と教えてくれて、よいシッターさんぶりを発揮しました。産後に体調がすぐれない私にも寄り添い続けました。

じーっ。可愛い“弟”を見つめています
じーっ。可愛い“弟”を見つめています

 息子がハイハイを始めた頃、こんなこともありました。お腹が痛くなって私がトイレにいこうとすると、息子が必死に追いかけてきたんです。ゆっくりトイレに入りたいので、「ちょっとモモお願い、赤ちゃん見ていてくれない?」と話しかけると、息子の相手をするように、トイレの前でごろーんとお腹を見せて転がって、息子の動きを止めてくれたんです。

 息子もモモが大好きでした。体をつかもうとした時に「だめよ」と注意すると、優しくナデナデするようになって。「パパ、ママ、ニャンニャン」といっていました。少し大きくなると、表で見つけたどんぐりを「拾ったよ~」とモモに見せたりして。

 こうして、モモと息子と夫と私と、“4人家族”の穏やかな日が続きました。しかし、モモが17歳になった頃、まさかの事態がおきたのです。

視線の先にはハイハイする子
視線の先にはハイハイする子

■6か月の余命宣告を受けて……

 結婚から5年目、2018年の1月。モモの毛をブラッシングしている時に、胸にころっとしたものを見つけました。避妊は若い頃にしているし、イボかなと思いました。軟膏をもらうために動物病院に連れていくと、思ってもみなかった診断がくだりました。

 乳がんでした。

 2センチ超えの大きさで転移もあり、余命は半年あるかないかと言われ、頭が真っ白に。

 家に戻って夫と相談しました。17歳という年齢で、手術をしても助かるかわからず、抗がん剤を投与してもつらい副作用などがある。

 悔やんで悲しくてたくさん泣きましたが、悩んだ末に、積極的な治療はせずそのまま家でということになりました。

 モモは3階で過ごすことが多くなり、少しづつ食欲が落ちていきました。

 私は息子が1歳を過ぎた時に復職したので、仕事をしながらの看病でした。食が細くなるモモを見るのは本当につらかったですが、「最後まで見守らないと」と思いました。ちゅーるだけは食べてくれて、がんばろうね、といっていたのですが。

 6月22日、いつも3階で寝るモモが、2階の人間用のトイレの個室にこもりました。それまで入ったこともない暗い場所です。声をかけても静かに丸まっています。

 とても気になりましたが、翌23日は仕事で抜けられず、近くに住む私の母に様子を見にきてもらうことにしました。それまでも、母は何度か留守番をしにきてくれています。

 昼頃、母から届いたラインを見て、え?と見直しました。

 モモが2階のトイレから出てきて、「抱っこをせがんだ」というのです。

 母はそのままモモを抱いて部屋を見て回り、3階の普段モモが寝ているベッドまで連れていって寝かせ、「(思ったより)元気だよ」とラインをくれました。

 私は少し安心して「好きなお湯を飲ませてあげて」と返信しました。

 モモはうれしそうにお湯を飲んだ後、横になったので、母は2階で片付けとか家のことをして、30分くらい経ってから様子を見に3階にあがったそうです。

 モモはベッドの上で体を起こしていたみたいで、母が「どうしたの?」と声をかけたら、大きな声で「ニャー」と返事をし、そのまま、すーっと旅立っていったのです。

 家に帰って対面したモモは、不思議なことに“口角”があがっていました。

 私も実家で猫を看取った経験がありますが、笑ったような、最後のお顔は初めてです。

 息子が「なんでモモはずっと寝てるの?」と聞いてきたので、「モモちゃんはいっぱいがんばって、今いちばん大好きな人のところにいったんだよ」と、私は涙ながらに答えました。

“幻のお母さん”にせがんだ抱っこ
“幻のお母さん”にせがんだ抱っこ

 あとから夫の妹に聞いたのですが、夫の母と私の母は、小柄で背格好がよく似ているそうです。

 もしかしたらモモは旅立つ前、少し混濁したなかで母を見て、大好きだった、でも長らく会えなかったお母さんと間違えたのかもしれません。“幻のお母さん”に心から甘えて抱っこを叶えてもらい、うれしかったのかな。だからあんな風に笑ったまま……。

■大好きなお母さんとずっと一緒

 この6月で、モモとお別れして4年になります。時間が経つのは早いものです。

 じつは昨年、我が家に新しい保護猫を迎えました。チーちゃんという1歳の子。モモとはまったく違うタイプで、小学3年生になった息子もこんな風にいっています。

「モモは、おねえちゃんという感じだったけど、チーは妹って感じだね」

新たに迎えたチー。モモも見守ってくれるかな
新たに迎えたチー。モモも見守ってくれるかな

 モモは本当に私たち親子を見守る感じでしたからね。私の出産前後のつらい時期に寄り添い、息子をとても可愛がってくれたのだから。

 あらためて今、思います。

 モモには忘れられない家族がいました。でも私と息子もまた、まぎれもない家族でした。(そうよねモモちゃん)

 夫は母の骨のかけらをジュエリーケースに入れて大切にしていたのですが、モモのかけらもそこに入れてもらい、玄関に置いています。お母さんと一緒です。

 モモちゃん、愛をありがとう。お母さんと一緒に、お空から見守ってくれているかな……。

愛しい姿思い出は永遠に……
愛しい姿思い出は永遠に……

(水野マルコ)

【猫と飼い主さん募集】
「猫をたずねて三千里」は猫好きの読者とともに作り上げる連載です。編集部と一緒にあなたの飼い猫のストーリーを紡ぎませんか? 2匹の猫のお母さんでもある、ペット取材歴25年の水野マルコ記者が飼い主さんから話を聞いて、飼い主さんの目線で、猫との出会いから今までの物語をつづります。虹の橋を渡った子のお話も大歓迎です。ぜひ、あなたと猫の物語を教えてください。記事中、飼い主さんの名前は仮名でもOKです。飼い猫の簡単な紹介、お住まいの地域(都道府県)とともにこちらにご連絡ください。nekosanzenri@asahi.com

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水野マルコ

水野マルコ

水野マルコ/1961年生まれ。ライター。猫と暮らして30年。今は優しいおばあちゃん猫と甘えん坊な男子猫と暮らしています。猫雑誌、一般誌、Web等での取材歴25年。猫と家族の絆を記すのが好き。猫と暮らせるグループホームを開くのが夢。

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