LOVE PSYCHEDELICOのNAOKIさん(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
LOVE PSYCHEDELICOのNAOKIさん(撮影/写真映像部・高橋奈緒)

映画館を“音”で選ぶ人が増えている。“爆音映画祭”(ライブ用の音響システムを使用した映画鑑賞)なるものが全国各地で行われ、よりリアルで立体的な音が楽しめる“ドルビーアトモス”を採用する映画館も増加。“映画館の音響”への関心が高まるなか、TOHOシネマズの試みが注目を集めている。

【写真】LOVE PSYCHEDELICOの2人はこちら。

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TOHOシネマズでは、2020年よりロックユニット「LOVE PSYCHEDELICO」のNAOKI氏に音響監修を依頼している。立川立飛の轟音シアター、プレミアムシアターを皮切りに、日比谷、池袋、大阪、福岡にもNAOKI氏が音響監修を手がけたシアターが続々とオープン。“自然な良い音で映画を楽しめる”と映画ファンからも高い評価を得ている。

トップアーティストとして活躍する傍ら、レコーディングエンジニアとしても注目されてきたNAOKI氏。映画マニアでもある彼が映画館の音作りに関わった経緯、そして、“いい音とは何か?”について語ってもらった。

■試写会かと思ったら、“音”の聞き分けテストだった

――NAOKIさんが映画館の音響監修を担当することになった経緯は?

きっかけはTOHOシネマズ日比谷の“プレミアムシアター”にカスタムオーダーメイドのスピーカーが採用されたことですね。そのスピーカーを作ったのが、僕たちのプライベートスタジオのメインスピーカーのセッティングをお願いしていた方だったんです。

その“プレミアムシアター”で映画を観たら、音が本当に素晴らしくて、「映画館の音響も新しい時代に入ったな」と。その方に「あんなスピーカーでライブをやってみたい」って冗談で言ったら、「ぜひやりましょう」ということになって、2018年のLOVE PSYCHEDELICOのアコースティック・ツアーに合わせてコンサート会場用のスピーカーを制作してもらったんですよ。映画館で使用しているスピーカーにライブ会場用にアレンジを加えたんですけど、機材がすごい量になって。KUMI(LOVE PSYCHEDELICO)と二人だけで回るアコースティックツアーだったのに、予想以上にスピーカーシステムが大きくてアリーナバンドのツアーみたいにトラック2台で会場入りしていました。

――すごい(笑)。

作っていただいたサウンドシステムの音はもちろん素晴らしくて、ツアー中本当に気持ち良く演奏に集中出来ました。そしたらそのコンサートスピーカーの噂を聞いたのか、今度はTOHOシネマズの方から「池袋の新しい映画館がオープンするので、前日にプライベートでいらっしゃいませんか?」と連絡をいただいたんです。試写会みたいなものかなと思って行ったら、お客さん僕ひとりなんですよ(笑)。入り口には背広を着た方が10人くらい並んでいて、挨拶されたりして「なんか試写会っぽくないな」なんて思ってはいたんですけど。スクリーンに案内されたらね、そこで「これから『ある映画の』の冒頭5分と、歌唱シーンを見ていただきます」と……。「え、映画全編観るんじゃないの!?」と戸惑いましたね。3つの部屋のスクリーンで同じシーンを観せられた後、また背広のみなさんが登場して、その場で「それぞれのスクリーンの音はいかがでしたか?」ってテストみたいなことが始まったんですよ(笑)。

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森朋之

森朋之

森朋之(もり・ともゆき)/音楽ライター。1990年代の終わりからライターとして活動をはじめ、延べ5000組以上のアーティストのインタビューを担当。ロックバンド、シンガーソングライターからアニソンまで、日本のポピュラーミュージック全般が守備範囲。主な寄稿先に、音楽ナタリー、リアルサウンド、オリコンなど。

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