大物政治家だった田中角栄氏からは官僚も学ぶことが多い
大物政治家だった田中角栄氏からは官僚も学ぶことが多い

仕事にやりがいを感じていている人でも、労働環境がブラックな人でも、転職を考えている人の多くは「人間関係」に悩み、それを主な転職理由としています。気まぐれな上司、言うことをきかない部下、一方的に敵視してくる同期……組織とは人がつくり、人で成り立つものであるがゆえに、人間関係の悩みは尽きません。自分が所属する組織の中でどう振る舞い、どのように人間関係を築くかは、決してAIには代替できない「最強のスキル」なのです。特に規律を重んじる官僚組織では、それはより顕著になります。内閣府の元官僚・久保田崇さんはハードな現場で「処世術(スキル)」を武器に生き残ってきました。その一部を『官僚が学んだ究極の組織内サバイバル術』(朝日新書)より抜粋。今回は田中角栄元首相が残した「仲間を増やすよりて敵を減らせ」という格言が組織で生き残るためにいかに必要なスキルかを紹介します。

【写真】田中角栄氏から「封筒」を渡されたというジャーナリスト

*  *  *

■田中角栄元首相「違う。敵を減らすことだ」

 組織でサバイバルするためには味方を増やすのと、敵をつくらないのと、どちらが大切なのでしょうか。

「味方を増やすより敵をつくらないことだ」と言ったのは田中角栄元首相です。田中氏は高等小学校卒の「庶民宰相」ともてはやされ、首相就任前に著した『日本列島改造論』に基づき高速道路と新幹線網の拡充を進めました。金脈問題とロッキード疑惑で失脚しましたが、元東京都知事で作家の石原慎太郎(2022年逝去)が小説『天才』(16年、幻冬舎)の中で同氏を一人称「俺」で描くなど近年となって再評価されています。

 その田中氏のエピソードを紹介します。名物秘書の早坂茂三に対し「頂上を極めるには何が必要か?」と田中氏が質問したところ、早坂は「味方をつくることではないですか?」と答えましたが、「違う。敵を減らすことだ」と当時、44歳の田中氏は答えたそうです。「敵を減らすよりも味方を増やすことのほうが大切じゃないですか。味方は協力してくれるんですから」となおも食い下がって主張すると、「だからおまえはダメなんだ。人間がわかってない」と叱られたそうです。

次のページ
新入職員の顔と名前をすべて覚えていた