容疑者逮捕を受けて記者会見する花田憲彦町長
容疑者逮捕を受けて記者会見する花田憲彦町長

 山口県阿武町から新型コロナウイルス臨時特別給付金、4630万円が間違って銀行口座に振り込まれ、その金を別の口座に振り替えた電子計算機使用詐欺容疑で逮捕された無職田口翔容疑者(24)。同県警は5月20日、田口容疑者の自宅を家宅捜索した。今後の捜査の行方や返還の見込み、町の責任など、気になる点は多い。

「公金の誤振込みとその後の対応について」として経緯をまとめた阿武町の資料

 これまでの経緯を振り返ると、田口容疑者の口座に4630万円が振り込まれ、金融機関からの指摘で発覚したのは4月8日。その当日、町は午前中に田口容疑者に連絡して事情を説明し、職員が、田口容疑者を公用車に乗せて、銀行に向かった。

 しかし、田口容疑者は銀行に到着すると、態度を一変し、

「今日は手続きをしない。後日、公文書を郵送してほしい」

 と求めて、手続きを断った。

 銀行の営業時間が終了し、公用車で引き上げた田口容疑者は、途中で下車。その後、町は山口県内に住む田口容疑者の母親にも説得を依頼したが、進展しなかった。そして、4月21日、送金額を取り戻す手続きをしようと、町職員が田口容疑者の自宅を訪ねたところ、

お金はもう動かした。もう戻せない。犯罪になることはわかっている。罪は償う」

 などと返還を拒否する態度を示したという。

 翌22日、町は記者会見して経緯を説明し、全額回収に向けて動き出す方針を示した。

 しかし、時すでに遅し。町が記者会見した時点で、田口容疑者は大半の金を引き出すなどして、残高は6万8743円になっていたのだ。町は、田口容疑者に対し、弁護士費用など含めて5100万円を求める民事訴訟を5月12日に起こした。

 一方、田口容疑者も弁護士を立てて争う姿勢を見せた。

 記者会見した田口容疑者の弁護士によると、町が誤って送金する前の田口容疑者の口座の残金はわずか665円。そこに正規の給付金10万円と4630万円が振り込まれた。田口容疑者は、振り込まれた当日にデビット決済で約68万円を出金。その後もスマートフォンで出金を繰り返し、4月19日までに計34回出金し、大半を使い切っていた。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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一度に400万円の出金も