ダチョウ倶楽部(GettyImages)
ダチョウ倶楽部(GettyImages)

 リアクション芸に必要なのは「技術」と「覚悟」である。技術はある程度までは努力で身につけられるのかもしれないが、覚悟はそうはいかない。リアクション芸の面白さの決め手となるのは「絶対にこの状況を笑いにしてやる」という覚悟である。

 一歩間違えば大怪我をするかもしれない。格好悪いところをさらけ出して恥ずかしい思いをしたり、子どもにも見下されて馬鹿にされたりするかもしれない。それでも、やる。笑いのために体を張り、命を張る。

 私が知る限り、上島さんは、ほかの誰よりもこの覚悟を持っている芸人だった。だからこそ、リアクション芸のスペシャリストとして多くのテレビマンから信頼され、多くの芸人から尊敬を集めてきたのだ。

 上島さんはいわゆる「できる芸人」ではない。芸人の能力を分野別に評価するなら、できないことの方がはるかに多いだろう。ネタを考えたり、大喜利をしたり、司会進行をしたり、エピソードトークをしたり、というのは彼の得意とするところではない。

 でも、笑いのためにすべてを引き受ける覚悟に関しては、彼の右に出る者はいなかった。その一点だけに特化して、上島さんは裸一貫で堂々と芸能界を渡り歩いてきた。

「惜しい人を亡くした」といったありきたりな言葉では表せないくらい、上島さんの抜けた穴は大きい。彼は後輩芸人たちから「太陽様」と呼ばれ、慕われていた。世界を明るく照らす太陽が消えてしまったような寂しさを、私たちはこれからどこまでも抱えていくことになる。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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