写真はイメージ(GettyImages)
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「コロナ禍で人々の価値観が変化している」とは、よく聞かれること。テレワークの普及し、本社を首都圏から地方に移転する脱首都圏の動きも進み、多拠点生活など、ここ数年で働き方の選択肢が大きく広がった。

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 これからの「働く」をAERAdot.と一緒に考える短期集中連載「30代、40代の#転職活動」。第3回は「お金より時間」を選んだ40代夫婦の話から。人々の仕事への意識はどう変わり、動いた人はいかに行動したかを追った。

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「給料は半分以下になったけど、今の方が幸せな気がする」

 四国在住のAさん(43)。3年前に結婚し、6歳年上の自営業の夫と二人暮らし。半年前まで旅館に勤務し、シフト制で受付などの業務を担っていた。従業員は女性が多く、子育て中の人も多い。子どもがいないAさんは、特に人手不足になる夜間のシフトも、積極的に買って出ていた。職場の人間関係は良好で、長年勤めている環境なだけあって居心地も良い。まさか自分がこの職場を辞めるなんて、思ってもみなかった。コロナ禍で、今後のことを真剣に考える機会が訪れるまでは――。

 最初のきっかけは、夫が毎晩、仕事から帰宅後に、一人でご飯を食べていることだった。普段はAさんが仕事に行く前に料理し、ラップをかけたものを冷蔵庫に入れておく。仕事から帰宅した夫は、冷蔵庫からそれを出し、電子レンジで温めて食べるのが常だった。

 Aさんが久しぶりに早番で早く帰ったある日、夫と向かい合って一緒に晩御飯を食べていると、夫がポツリとつぶやいた。

「一日の終わりに、一緒にご飯を食べられるのはええなあ。いつもテレビに向かって食べよるから」

 ハッとした。それまで夫に寂しい思いをさせていると考えたことはなかった。夫はあまり感情を表に出さないし、愚痴も言わない。帰宅すると、いつも「お疲れさん」と笑顔で出迎えてくれていた。だが言わないだけで、本当は寂しかったのかもしれない。暗い部屋に帰宅し、レンジで一人分の食事を温め、ポツンと一人、テレビに向かって晩御飯を食べる夫の姿を想像した。チクリと胸が痛み、「この生活を続けて良いのだろうか」という気持ちがムクムクと湧き上がってきた。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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