タケを食べる上野動物園のリーリー(c)朝日新聞社
タケを食べる上野動物園のリーリー(c)朝日新聞社

 ジャイアントパンダ(以下、パンダ)といえば、いつでもタケやササを食べているというイメージを持つ人も多いのでは? 実際にパンダは1日の大半を食事の時間に費やしています。では、どうしてそんなに食べ続けているのでしょうか。知っているようで知らない、パンダの食事情を、上野動物園パンダ班の前班長で、『パンダとわたし』(黒柳徹子と仲間たち・著)の筆者の一人でもある廣田敦司さんに教えてもらいました。

【写真】パンダのフンはどうなっているの?

■食べたタケがそんなに素通りして大丈夫?

「パンダは何を食べる?」という質問に対して、今やほとんどの人が「竹」や「笹」と答えると思います。街を歩いていてもパンダのキャラクターが笑顔でタケの葉を食べているポスターやパッケージを目にしますし、子どもたちに絵を描いてもらってもきっとそういうシーンが多いでしょう。それほど「パンダ」→「タケ」というイメージが浸透していることがわかります。

 そのイメージどおり、パンダは食べているもののうち、ほぼすべてがタケです。動物園ではリンゴやニンジンなどを与えることもありますが、量としてはおやつ程度です。野生では他の動物の肉を食べることもある、という話も聞きますが、きっとこちらも量としては多くはないでしょう。パンダは、繁殖力が旺盛なタケを食べ物に選ぶことで、一年中安定して大量のエサを確保できるメリットを得ることになりました。

 反面、デメリットと言えそうな点もあります。肉食獣にとって、植物が、とくにタケがエサとして利用しづらいこともその一つです。タケは他の植物、とくにウシやウマなどが食べているような青草に比べて繊維が多く含まれています。加えて植物の細胞はセルロースという物質を含む細胞壁に囲まれているため、それを食べる動物には「効率良く栄養を得る→セルロースを分解する」という仕組みが要求されます。そのため植物を主食とする動物は、胃や腸の中にセルロースを分解する細菌を共生させたり、時間をかけて分解をするために長い腸を持っていたりします。

上野動物園の「パンダのもり」に展示されているパンダのフンのレプリカ。消化できずに出てきてしまうタケの葉なども再現されている(撮影/加藤夏子・朝日新聞出版写真映像部)
上野動物園の「パンダのもり」に展示されているパンダのフンのレプリカ。消化できずに出てきてしまうタケの葉なども再現されている(撮影/加藤夏子・朝日新聞出版写真映像部)

 しかしパンダは肉食獣の仲間で、そのような仕組みが発達していない動物です。長い腸は持たず、セルロースを効率良く分解する腸内細菌が大量に存在しているわけでもなく、その結果、食べたものはおよそ12時間以内にはフンとして身体から出てきてしまいます。フンをバラバラにしてみると、口から入ったタケの葉や稈(かん=茎に当たる部分)が、外見上ほぼ原形をとどめたままの状態で出てきており、タケの消化が不得意なことが一目瞭然です。あまりに他の動物のフンと大違いなので、こんなにも身体を素通りしてしまって大丈夫だろうか?と心配になるくらいです。

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「なまけている」も重要な生存戦略の一つ