木村伊兵衛写真賞ブロンズ像を持って、はにかむ吉田志穂さん(高野楓菜/写真映像部)
木村伊兵衛写真賞ブロンズ像を持って、はにかむ吉田志穂さん(高野楓菜/写真映像部)
ニコンプラザ東京 THE GALLERYでのインスタレーション
ニコンプラザ東京 THE GALLERYでのインスタレーション
受賞対象となったシリーズ「砂の下の鯨」を見つめる吉田志穂さん
受賞対象となったシリーズ「砂の下の鯨」を見つめる吉田志穂さん
Yumiko Chiba Associatesでの「吉田志穂『測量|山』」
Yumiko Chiba Associatesでの「吉田志穂『測量|山』」

 第46回木村伊兵衛賞を受賞した吉田志穂さんの展覧会が今、新宿の2カ所のギャラリーで開催されている。受賞作のひとつである写真集『測量|山』の作品も、展示の仕方によって見え方や感じ方ががらりと変わる。その魅力は何なのだろうか。

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 ニコンプラザ東京THE GALLERY(~4月30日まで開催)。目の前の暗幕を開き、暗がり空間に足をすべり込ませると、目下に広がるのは作品の「山」たち。山を見る、登山する場合、目線は自然と上を向くが、ここでは違う。そして逆にそのインスタレーションによって、作品たちが共鳴しているのを感じられもする。

 新人写真家を対象としている木村伊兵衛写真賞の第46回の受賞者である吉田志穂さん(29)は、この2年間で個展やグループ展を開いたり写真集を手掛けたりするなど、その活動が評価された。

 インスタレーションは、特定の室内に作品や装置を置いて写真家の意向のままに空間を構成し、その空間全体を作品として体験させるという展示方法だ。吉田さんはこう、話す。

「山は時として、天地を逆さまにして見たときに、違う表情を映し出すことがあります。その、面白さを感じていただければ」

■ 原形の中に新しい光を差して遊んでみる

 会場の奥に、1本の光をうまく扱った展示があった。木の幹かな?と作品に近づいていき、段々と目が暗がりに慣れてくると見えたのはつららだ、面白い。

「その部分だけを照らすと、つらら自身が作品の中から浮き上がってきます。立体的な室内づくりを考えているからこそできた、展示です」

 なるほど、と感嘆の声を挙げてしまったが、すぐにこう、言いかぶせられた。

「以前、同じ作品を展示したときに、その会場の建付けが悪かったのか、1本の光が壁の間から漏れていたんです。ひとすじの光の線ができたので、そこに敢えてつららの作品を置いてみた。遊んでみたんですね。原形の中に新しい光を差したらどうなるのか、と」

 千葉県館山市で生まれ育った。温暖な気候で、「大学2年まで雪をまともに見たことがなかった」と笑う。周囲には大きな山もない。だからか、高い雪山に自然と憧れを抱いた。初めて雪山に登ったとき、

「『もっとすごい』と思っていた感情と『やはりこれぐらいか』と体感した想いが自分の中で交錯しました。事前情報はインターネットで気軽に手に入ります。情報とともに映る画像には、自分が撮影するよりも上手な人もいる。だから景色をそのまま撮っても仕方がない。画像検索と、現像・プリントといった伝統的な写真の技法を組み合わせた新しい表現は、ないのだろうかと思いました」

 その制作の方法は独特だ。『測量|山』はまず、インターネット検索で特定の山の画像を見つけてプリントし、さらに、その画像とともに現地に赴く。その場で撮影を行い、検索画像のプリントを入れ込んで撮影し、それらの写真を暗室作業などで加工して新たなイメージを作り出す。毎日の生活において、まるで隣にずっといるようなインターネットを使った、デジタルネイティブ世代の写真家だ。

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