■今後重要になるのは「バイオメディカルデータ」の活用法

 例えば、患者がある病気で治療を受けたとする。その段階では肝機能障害は診断されていないが、「この患者がこの治療を続ければ、高い頻度で肝機能障害を起こす可能性がある」といったことがゲノムの情報で事前にわかっていれば、薬を変更する、あるいは慎重に投与するといった、一歩進んだ患者に適した治療が可能になる。

「もちろん、最終的には医師の判断になりますが、医師はこれまで培った経験と、ゲノムの情報を含めたバイオメディカルデータを持つことで、医師としての能力を最大限に発揮できるようになるのではないでしょうか」

 さらに医療から一歩進んだ、ヘルスケア分野でのバイオメディカルデータの活用も今後は考えられる。実際に、市販されているスマートウォッチのほとんどが身体の活動量や心拍数を測ることができる。なかには心電図を測れるものさえ登場している。こうしたデータをバイオメディカルデータにマッチングさせることで、病気の診断や治療だけでなく、健康増進、長寿対策といったヘルスケアにも生かせるというのだ。

 もう一つの課題は、ゲノム解析の技術的な進化がまだ十分ではないという点だ。ここにはAI(人工知能)のサポートが必要不可欠になる。宮野特任教授は、かつてヒトゲノム解析センター長を務めていた東京大学医科学研究所(東京都港区)での経験をこう語る。

「固形がん(臓器や組織に塊としてできるがん)の全ゲノムシーケンスから変異を調べると、100万個ほど出てきたりするんです。そうすると、結局、この患者さんの病気は100万個の変異のどれが原因なのか、さっぱりわからないということになります。医科研を訪ねてくる患者さんのほとんどが、標準治療をすべてやり尽くしたけれど、治らないという人。ですので、何としても決め手となる変異を見つけたいのですが、100万個もあると調べきれない。どうしようもないという状態でした」

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若い医師や医学生は時代の変化を認識している