写真はイメージ。
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 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、フラワーデモで考える、性被害者と性加害者の「常識」ついて。

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 2019年3月に連続して起きた性暴力無罪判決に抗議するために始まったフラワーデモが、4回目の春を迎えた。花をもって被害者に寄り添い、性加害を告発し、性暴力に抗議しつづけてきたデモは、今回、44都市31都道府県+ロンドンで行われた。フラワーデモの始まりの場となった東京駅の行幸通りには50人ほどが集まった。

 連続した4件の無罪判決のうち、一審で無罪が確定してしまった事件について語ってくれた人がいた(他の3件は全て逆転有罪が確定した)。フラワーデモを語るとき、「無罪判決が逆転有罪になった」と強調してしまうことがあるが、そう語るたびに、一審で無罪が確定してしまった事件への悔しさが募るような気分になる。私自身、フラワーデモを続けるなかで、この事件のことはずっと頭の片隅にあった。あまりにもひどい判決内容(それは他の一審判決全てに共通することだが)だったこと、そしてこの一件だけが、裁判員裁判で行われたからだ。

 無罪が確定した事件は静岡県でおきた。深夜、支払いを済ませるためにコンビニに行った20代の女性が初対面の男性に声をかけられ、帰宅途中で被害にあった。裁判では女性が同意をしていないことが認められていた。身長が男よりも20センチ低く、体重も半分に近いほど体格差があったことから、頭が真っ白になり抵抗を諦めたことも認められている。それでも無罪になってしまったのは、男側の言い分が全て認められたからだ。

 男が見ている世界はひたすら自己中心的なものだった。女性は大声を出したり暴れたりなど強く抵抗したわけでもなかった、口にキスを求めたら嫌がったが頬にキスを求めたらすぐにしてきたのは彼女のほうからだった、無理やり口をあけさせたときに痛がってはいたが求めには応じた……。判決は男側の言い分に優しく寄り添ったものだった。「いわゆるナンパをした女性に対し、相手の反応をうかがいながら、徐々に行動をエスカレートした」とし、男が彼女が同意していなかったことを理解するには「常識に照らして疑問が残る」としたのだった。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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都合の良いように解釈する加害者の「常識」