蟲柱・胡蝶しのぶ(画像はコミックス「鬼滅の刃」6巻のカバーより)
蟲柱・胡蝶しのぶ(画像はコミックス「鬼滅の刃」6巻のカバーより)

【※ネタバレ注意】以下の内容には、今後放映予定のアニメ、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

鬼滅の刃』アニメ2期で姿を見せた、上弦の弍(※遊郭編回想シーンでは「上弦の陸」)の鬼・童磨(どうま)は初登場時から、その美しさで鬼滅ファンを魅了した。しかし、その美貌と優しい声色とはうらはらに、人間を喰ったばかりの血まみれの口元をさらすなど、鬼としての恐ろしさも見せつけた。この二面性を持つ鬼の童磨と、彼と因縁が深い胡蝶しのぶとの関係性について考察する。

【写真】「上弦の鬼」のなかで最も悲しい過去を持つ鬼

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■童磨の二面性と「声」

 アニメ2期「遊郭編」での童磨の初登場シーンでは、声優の宮野真守氏が素晴らしい演技をみせた。童磨の“酷薄さ”と“柔和さ”は見ている者を混乱させる。この相反する要素は、彼の大きな魅力であるといえよう。

<どうした どうした 可哀想に 俺は優しいから放っておけないぜ>(童磨/11巻・第96話「何度生まれ変わっても<前編>」)

 大やけどで死にかけている梅(※のちに「上弦の陸」の鬼となる堕姫)とけがを負った妓夫太郎を見つけた瞬間、童磨はこのように声をかけているが、妓夫太郎たちの深刻な状況に対して、彼の声は少し笑いを含んだような軽い調子だった。その声は不謹慎なようでありながら、いたわるようなトーンも含まれる。さらに「その娘 間もなく死ぬだろう」というセリフでは、一転して残酷な現実を妓夫太郎に突きつける冷さを帯びる。

 目まぐるしく入れ替わる、童磨の残忍さ、慈悲、酔狂、無感情、好奇心、清心……彼の複雑な「本質」が、宮野氏の声の抑揚によって多彩に表現されていた。

■童磨の危険な「美しさ」

 童磨は他の上弦の鬼とは違い、「人間」の名残をそのままに、しかし“普通の人間”にはない「美」を体現している。白橡(しろつるばみ)色の髪、虹色の瞳。人を惑わすような柔らかい物腰。優しい声色。

 そして同時に彼は、したたり落ちる血のような色をした頭頂部、「上弦」の印が刻まれた目、口元には牙と、「鬼」らしい特徴もあわせもっている。弱っている人間の心に入りこむその様子は、美青年姿で絵画に描かれる、西洋的な悪魔をほうふつとさせる。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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童磨が主張する人喰いという名の「救済」