作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、#MeTooについて。

 日本の#MeTooがじわじわと大きくなっているのを感じる。週刊文春が報じた映画監督の榊英雄氏や、俳優の木下ほうか氏の性加害にくわえ、今週は週刊女性が著名な映画監督である園子温氏の性加害を報じている。彼らを告発したのは、すべて俳優たちである。榊氏の場合は、フェミニスト、アクティビストである石川優実さんや、俳優で文筆家の睡蓮みどりさんが実名で告発したこともあり、石川さんのもとには被害者からの連絡が相次いでいるという。その数は既に25人にも及び、そこには「未遂」と「知人に被害者がいる」という告発は含まれていない。

 業界で知られている男性の監督や俳優と、売り出し中の女性の俳優。当事者じゃなくてもわかる、圧倒的な力関係がそこにはある。記事によれば、女性たちは「映画に出てほしい」「プロデューサーに紹介してあげる」という甘言や、またはそういう言葉がなかったとしても「断ったら仕事がなくなる」というプレッシャーのなかで屈辱的な行為を強いられてきたという。

 記事では、男性の監督や俳優の周りの人たちも「あの人はああいう人だから」と見て見ぬふりをしていたことがわかる。誰がどの加害をしたのかわからなくなるほど、告発の内容は言葉を失うほどに似ている。被害者ひとりひとりは人生を中断させられるほどの痛みに必死に耐えているというのに、性加害者側の振る舞いは軽々しく、自分がそうする権利があるかのように性交を求め、加害性を全く理解せず同じことを繰り返していたことが報じられている。

 力関係を利用した性加害は決してエンタメ業界だけのことではなく、あらゆる仕事関係で起きているだろう。それでも加害側が有名人で影響力がある人ほど、告発は難しくなる。告発をしたくても「彼のキャリアをつぶしてはいけない」などと、口を封じられた人はどれほどいるだろう。それでも告発をしようとすれば、「彼女は嘘つきだ」「合意だった」「何か意図があるのだろう。金か?」「有名になりたいのか?」という誹謗中傷が被害者に向けられる。それでも告発の手を緩めなければ、「本当は彼が好きだったのに、振られたから、おかしくなってしまったようだ」と、女性に「精神的な問題がある」というお決まりのレッテルが貼られる。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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#MeTooの力