放送作家の鈴木さおむさん
放送作家の鈴木さおむさん

 放送作家・鈴木おさむさんが、今を生きる同世代の方々におくる連載『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は、ブラックジョークについて。

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 ジョークとは何かを考えてみる。ブラックジョークと言われるジャンルがある。その中で特定の人を引き合いに出して、笑いを取ろうとすることがある。

 ブラックジョークの対象になった人は、それで笑いを取られていたら手放しでは笑えないだろう。腹も立つだろう。だけど、おもしろいブラックジョークというのは、その相手が、悔しいし腹も立つけど、どこかに「してやられた!」感がなければいけないんじゃないかと僕は思っている。

 芸の中でも「ものまね」というジャンルがある。日本でもたくさんものまね芸人さんがいる。最近だと松本人志さんのものまねをしている「JP」が話題だが。

 この仕事をしていると、色んな話が入ってくる。あるものまね芸人さんが、とある人気タレントさんのものまねをしていたのだが、そのものまねされている人が、かなり怒ってると。

 だからそれに気を遣って、その人にそのものまねをさせられない!なんてこともあった。

 確かに、その人が良く言う口癖をものまねして、それが流行ってしまった場合、そのタレントさんがテレビでその言葉を言った時に、笑われてしまうこともあるだろう。人によってはそれを「営業妨害」という人もいるが。だが、その本人は悔しいけれど「似ている」と思っているんじゃないか。だから怒るのだと思う。

 こんな僕のことを真似してくれた芸人さんがいた。にゃんこスターのアンゴラ村長という女芸人さんが「細かすぎて伝わらないものまね」で僕の真似をしてくれた。

 人に「真似される」といいうのは初めての経験だった。ものまねは「太い情報筋から得た知識をひけらかす鈴木おさむ」というタイトルで、「織田信長っていなかったらしいよね」と言って穴に落ちていった。

 自分の顔と服を真似されて恥ずかしいという思いもありながら、やはり「してやられた」感があった。「織田信長っていなかったらしいよね」なんて言葉は言ってないが、そんなことどうでもいいわけで、確かに太い情報筋から聞いた話を会議でしたことはある。何度もある。

 だから、「してやられた」と思って笑ってしまった。心の中では悔しい気持ちがないかと聞かれたら、ある。なぜ悔しいかというと、自分が無意識にやっていたことを「逮捕」された気持ちになったからだ。ものまねされる人の気持ちをこの時初めて感じたのだ。

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鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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