中島京子さん/1964年、東京生まれ。2010年『小さいおうち』で直木賞を受賞(撮影/写真部・加藤夏子)
中島京子さん/1964年、東京生まれ。2010年『小さいおうち』で直木賞を受賞(撮影/写真部・加藤夏子)

 スリランカ人男性と日本人母子が小さな家族を築こうとしていたが、ビザの更新にかかる不手際でスリランカ人男性は不法残留として入管施設に収容され、強制送還されそうに。家族は崩壊の危機に迫られる―――。実際に日本の片隅で起きているような入管問題をテーマにした小説『やさしい』(中央公論新社)が、第56回吉川英治文学賞と芸術選奨(大臣賞)に選ばれた。著者である直木賞作家・中島京子さんに、日本の入管行政と難民問題について聞いた。

【写真】「何度も死ぬと思った」入管収容体験を生々しく証言するクルド人男性

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――まず、小説『やさしい猫』で入管問題に光をあてたきっかけを教えてください。

 2017年に茨城県・牛久の入管で、ベトナム人が医療措置を受けられずに亡くなりました。その情報を、弁護士である友人のSNS投稿で知り、ショックを受けたのがきっかけです。

――小説が新聞に連載中だった昨年の3月6日、スリランカ出身の女性ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が名古屋出入国在留管理局で死亡しました。この悲報をどう受け止めましたか。また、この事件は作品にどんな影響を与えましたか。

 ウィシュマさんが亡くなったのは、連載がもうほぼ終わりかけていたころでしたので、作品自体に影響はしていませんが、事件はショックでした。入管で人が亡くなるのはウィシュマさんがはじめてではなく、毎年一人か二人亡くなっています。「またか」という思いがあり、入管の闇の深さを改めて思い知らされたような気がしました。

――難民認定率の低さや、長期収容など、日本の入管政策で指摘されている問題点について、どう考えますか。

 NHKなどでも「難民を受け入れるべきか、受け入れには慎重になるべきか」というような世論調査の結果を発表していますが、難民というのは「受け入れなくてはならない」「保護しなくてはならない」と難民条約で決まっています。ほかの国ではとうぜん難民と認定される人々を「日本では難民とはみなしません」というのは、通用しないのですが、入管はずっとそれをやってきていて、国連などから非難を受けています。

 まず、その認識を改めたうえで、入管とは別に難民認定機関を作って難民保護を行う必要があると思います。長期収容も、国連から「国際人権法違反」と指摘されている制度です。収容には期限を設けることが必要だと思います。また、収容するかしないかを入管の裁量だけで決めるやり方も改めるべきだと思います。

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「避難民」と「難民」という言葉