「水音のたえずして御仏とあり」(俳句:山頭火、撮影:宮田裕介)
「水音のたえずして御仏とあり」(俳句:山頭火、撮影:宮田裕介)

■心にしみた北島敬三さんのアドバイス

 宮田さんが写真を撮り始めたのもインドへ旅したころという。理由をたずねると、「まあ、つまらない話なんですけど」と前置きし、こう語った。

「そのとき、つき合っていた彼女が『カメラ女子になりたい』って言うから、誕生日プレゼントにニコンの一眼レフを買ったんです。ところが、それを渡す前に別れちゃった。じゃあ、俺がやってみようかな、と思った」

 宮田さんは半年ほどインドを放浪して帰国。しばらくしてニコンのフォトコンテストに写真を応募すると、入賞した。

「賞金やカメラをもらって、もしかしたら、写真を目指すのもいいかもしれないなあ、と思った」

 見どころがあると思われたに違いない。審査員の写真家たちから「遊びにおいでよと、声をかけられた」。インドで写した写真をまとめて見せに行くと、親身に教えてくれた。ポートフォリオレビューにも参加した。そうするうちに、「一貫して作品をつくろう、という気持ちになった」。

 特に印象に残るのは北島敬三さんのアドバイスだ。

「分かっていないんだから、分かったふうな写真を撮らないほうがいいよ、と言われた。そういう写真を撮ってもぼろが出る、もっと素直に撮れ、と。要するに、ちゃんとした根っこもないくせに、だせえことすんな、みたいな。そんな精神論として理解しました」

「この旅、果もない旅のつくつくぼうし」(俳句:山頭火、撮影:宮田裕介)
「この旅、果もない旅のつくつくぼうし」(俳句:山頭火、撮影:宮田裕介)

■女々しさが歌えるいい時代になった

 その後、宮田さんは10年ちかくチベットに通った。18年ごろからアイスランドを中心にヨーロッパも訪ねた。山頭火を意識し出したのはそのころだ。

「あるとき、ふと、山頭火って、いたなあ、と思い出した。しばらくぶりに読んだら、いいなあ、と思った」

 旅に出る際はいつもポケット判の句集を持ち歩く。俳句からインスピレーションが湧いて写真を撮ることもあれば、撮影した写真に俳句が重なることもある。

 そんな作品を3月29日からキヤノンギャラリー銀座に展示する。会場では写真と句をイメージして自らつくった曲を流す予定だ。

「ちなみにラップも自分が10代のころとはすっかり変わって、いまは『自嘲』っていうのもぜんぜんアリなんですよ。自分はだめで、女々しいとか。そんな曲が許されるようになった。いい時代になったなあ、と思いますね」

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】宮田裕介写真展「山頭火」
キヤノンギャラリー銀座 3月29日~4月9日
キヤノンギャラリー大阪 5月17日~5月28日