■力強く美しいポートフォリオ

 写真というもの自体が時代とともに大きく変化している時だからこそ生まれてくる独自の視点、明確なテーマとコンセプトの有無が評価を分けたように感じました。

 吉田志穂氏の作品の切り口自体は個人的な日常の小さなきっかけの中から生まれてきていますが、彼女はデジタルデータを形ある“モノ”として捉えていて、データと“モノ”の間でそれらを何度も入れ替えながら頭の中にある感覚的思考をイメージに落とし込んでいくのがうまく、そういったプロセスから出来上がった作品は現在の世界がいかに不確実性で満ちているかを示しているかのようです。

 インターネットが今のように使えるようになるまでは写真家が撮影のために旅に出たり移動したりすることが当然のことでしたが、インターネット上で見つけた場所に実際に行って撮影するという吉田氏の行為は、まるでSNSで見つけたいわゆる“映える”写真が撮れる場所にわざわざ赴いて、他者が撮っているものと同じような“映える”写真を撮るという今どきな行為にもどこか重なって見えます。

 そしてコロナ禍で撮影のための移動ができず生まれた作品があるというのも、直接的な表現をせずとも時代を表しているといえるでしょう。昨今インターネットを介した作品に斬新さや新鮮さは感じられなくなりましたが、デジタルデータの扱い方と作品へ落とし込むプロセスにオリジナリティーを感じます。惜しくも受賞には至りませんでしたが、顧剣亨氏にもその点では共通するところがあり、彼の写真的行為を私は評価しています。

 内容が的確に編集されていて、全体を通して統一されたデザイン、細部まで意識が行き渡っているクオリティーの高いポートフォリオ。そんなポートフォリオに出合うと、この作家の作品ならきっとクオリティーも高いはずだと想像します。また写真集では見えないことが見えてくることもあります。選考会で目にした吉田氏の作品は、力強く美しいポートフォリオが印象的でした。(写真家・澤田知子氏)

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写真家・大西みつぐ氏は「一途な凄み」と