「これを男女の関係に置き換えた場合、いま撮られている写真や動画の将来的なリスクを考えるより、相手にとって『いい人でいたい』『断ったら申し訳ない』などと、この場の雰囲気が良くなることを重視してしまうということです。真剣交際の相手だから、写真や動画を悪用したりはしないと思い込んでいる可能性もありますが、人間心理として、要求を拒否して嫌われてしまう、その苦痛がない方を選びがちなのです」

 ゆうき医師は、「同じような場面に置かれた場合、誰にでもこうした(被害の)リスクが生じ得ると思います」としたうえで、もし真剣な交際を目的にアプリを利用した場合の対策として、

「身体の関係を持つまでに時間をかける」「一人だけではなく、複数の人と会う」ことを挙げる。

「時間をかけるのは、身体の関係目的の人に引っかかってしまうリスクを減らすためです。また、一人の相手に入れ込みすぎると、周囲が見えなくなりがちです。広く浅く知り合うようにした方が、それぞれがどんな人かを見定めるための冷静さを保ちやすいと思います」

 ゆうき医師のクリニックにはさまざまな心の事情を抱える患者たちが訪れるが、カウンセリングなどを受けて、心が安らぐ人は多くいるという。人間は「話を聞いてくれて、わかってくれる人」を愛し、心を開く。特に、人間関係が希薄でさみしかったり、誰にも言えないストレスを抱えていたりすると、「自分をわかってくれるのはこの人だけ」という精神状態に陥りやすいそうだ。

 ゆうき医師は、こうアドバイスする。

「(身体目的の男性に)引っかかってしまった女性も、出会った当初や、相手の本心に気づくまでは、その男性のことを『自分をわかってくれる存在』だと思っていたはずです。ただ、『話を聞いてわかってくれる人』は異性である必要はありません。家族や友人、同性で心を開ける人を探してみるのも一つですし、自分が楽しめる趣味などを見つけることも、心には良いことだと思います」

 弁護士の話では、被害相談に来る女性は一様に心に寂しさを抱えていた。男性に強く憤りつつも、「好きと言ってほしかった」と本音を漏らす女性が多かったという。自分が何を求めているのか、安易にアプリを利用する前に考えてみても良いかもしれない。(AERA dot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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