写真はイメージです(Getty
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 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、組織におけるセクハラや性暴力について。

【写真】フラワーデモ「性暴力を許さない」

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 2月10日、東京高裁で性暴力事件をめぐる控訴審で逆転勝訴の判決が出された。一審では性暴力が認定されなかったが、二審では原告の主張が認められたのだ。

 ひどい事件だった。

 原告は、川崎市にある会社の取締役である男性上司から2年半にわたって性暴力を受け続けた女性だ。会社の飲み会で意識がなくなるまでアルコールを飲まされ、その帰りに性的暴行を受けたのがはじまりだった。その後も、深夜にわたるまで飲み屋を連れ回されたり、男性の自宅に連れていかれたりなどする日々が2年半にわたり続いた。抵抗しようにも解雇をちらつかされ、従うしかない状況だった。女性は心身の健康を損ない会社を辞めざるを得なくなったが、その後も電車に乗れないなどのPTSDのために長期にわたって失職状態が続いている。

 一審の判決は最悪だった。裁判官は、女性が会社を「自主退職している」ことと、最初の性被害から長期にわたる性的行為があったことをもって、「男女関係にあった」としたのだ。

 二審の判決が素晴らしかったのは、事件を被害者の視点で捉えなおしたことだった。一審では長期にわたった被害をもって「男女関係にあった」と決めつけたが、二審では長期にわたったことの悪質さも含め、性暴力を認定したのだ。また、事実を把握していたにもかかわらず全く対応しなかった会社の管理責任も問うた。

 今年大詰めを迎える性犯罪の刑法改正では、地位や関係性に乗じた性暴力の刑罰についても審議されている。就活中の女性が性被害にあったり、知的障がいを持つ人が施設職員から性被害を受けたり、教師からの性被害にあったり、上司からの性被害にあったり……、立場を利用し、相手が訴えるはずがないと考え、性交を強いる暴力がある。この裁判の支援者によると、加害男性の会社はこの判決を「不思議な判決だと感じた」とコメントしたという。加害者側は本当に「わからなかった」のかもしれない。女性の尊厳を守り、敬意を払って、共に働くことがどんなことなのか。性暴力がどういうものなのか。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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「セクハラだからやめたほうがいい」に激高