「顎(あご)が痛む」「口が開かない」「顎を動かすと音がする」……。顎(がく)関節症の代表的な症状ですが、中には「頭痛がする」という患者さんもいると聞きます。顎の病気なのに、なぜ頭痛が起こるのでしょうか? 頭痛の治療も歯科でおこなうのでしょうか? 若林健史歯科医師に聞きました。

【チェックリスト】その症状、歯周病?

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「顎が痛む」「口が開かない」「顎を動かすと音がする」。顎関節症はこれら三つの症状のうち、一つ以上が該当し、かつ、関節リウマチなどほかの似たような症状の病気が除外されるものを言います。

※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)

 顎関節症治療の指針2018(一般社団法人日本顎関節学会 編)によれば、「平成28年歯科疾患実態調査」をもとに患者数(顎関節になんらかの症状がみられる人)を推計すると約1900万人で、むし歯、歯周病にならぶ第三の歯科疾患とも言われています。

 顎関節症には、(1)顎を動かす筋肉の痛みを主な症状とするもの(咀嚼筋痛障害、そしゃくきんつうしょうがい)(2)顎関節の痛みを主な症状とするもの(顎関節痛障害)(3)顎関節の中の関節円板のずれが起こっているもの(顎関節円板障害)(4)顎関節を構成する骨に変化が起こっているもの(変形性顎関節症)、の四つの分類があります。

 私が日常的に診る患者さんは、(1)の顎の筋肉に痛みが起こっている患者さんが多いですね。

 顎を動かす筋肉には四つの咀嚼筋群があります。咬筋(こうきん)、側頭筋、内側翼突筋(ないそくよくとつきん)、外側翼突筋(がいそくよくとつきん)の大きく四つの筋肉群があります。

 かみ合わせが悪くなるなどの理由でこれらの咀嚼筋群に負担がかかると、筋肉疲労が起こり、痛みが出てきます。

 私はこの状態をよく、履き物の話に例えて説明します。

 例えば右足にビーチサンダル、左足に下駄を履いて歩いたら、どうなるでしょう。

 下駄のほうが高くなってしまうので、左足を曲げて歩くことになります。それでも無理をして進むと、慣れてきてそれなりに歩けてしまいますが、長時間歩いていると曲げている下駄の足が筋肉痛に……。やがて腰も痛みだしたりと、からだのふしぶしに影響する。同じようなことが口の中に起こっているのが顎関節症(咀嚼筋痛障害)といえるのです。

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若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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