撮影:ミーヨン
撮影:ミーヨン

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 韓国出身の写真家・ミーヨンさんの近作「Truth is One」の撮影の舞台となったのは、世界的に有名な聖地、インド・バラナシ。

【ミーヨンさんの作品はこちら】

 ミーヨンさんの作品づくりはいつも「疑問」から始まるそうで、「聖地って、何だろうと、疑問が湧いて。それで、行ってみよう、撮ってみようとなったんです」と、説明する。

 ところが、そこでミーヨンさんが話し始めたのはインドではなく、日本の「御嶽(うたき)」のことだった。

■沖縄・斎場御嶽での不思議な体験

 沖縄を中心とする南西諸島には琉球神道の聖地、御嶽が点在する。なかでも「斎場御嶽(せーふぁうたき)」(沖縄県南城市)は最も格の高い聖地とされ、2000年に世界文化遺産に登録された。

「私が聖地に関心を持ったきっかけは斎場御嶽なんです。01年に初めて沖縄を一人旅したとき、たまたま、斎場御嶽を訪れた」

 当時の斎場御嶽はまだ観光地化されておらず、「ふつうの自然の森でしたね。しかも、台風が通過した直後だったので、すごく荒れていて、誰一人、出会わなかった」。

 森のなかをしばらく歩いて行くと、突然、巨岩が現れた。そこには何かで切り取ったような大きな三角形の裂け目があり、その穴が海に向かって開いていた。

「岩のトンネルと抜けたところが三庫理(さんぐーい)と呼ばれる場所で、海の向こうに久高島が見えたんです。そこに座っていたら、背中に海の風が当たって、ものすごく気持ちよかった。それで、うとうとと居眠りをした。外で座りながら寝てしまったのは生まれて初めての体験で、この心地よさは何だろう、と。そんな不思議な空間だった」

 この体験はミーヨンさんの記憶に深く刻まれ、御嶽について強い興味を持つようになったという。「ただ、当時は写真に撮ることはなかったですね」。

撮影:ミーヨン
撮影:ミーヨン

■日本と韓国の信仰のルーツ

 聖地を撮り始めたきっかけを聞くと、1冊の本との出合いという。

「14年ごろ、『原始の神社をもとめて』(岡谷公二、平凡社新書)という本を読んだんです」

 そこには神社信仰の起源が論じられ、原始神道の始まりに関わる朝鮮半島からの渡来人の痕跡についても書かれていた。

「この本に『沖縄の御嶽』と『韓国の堂(たん)』が同じルーツだと記されていて、なるほど! と思ったんです」

「堂」というのは、古代からある韓国の聖地のこと。

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多摩川をガンジス川に見立てテスト撮影