写真はイメージです(Getty Images)
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 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、立場を利用した暴力について。

【写真】「あなたは悪くない」性暴力被害者への手書きのメッセージ

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 髪を切ってもらっているとき、ついたてを挟んで隣の男性客と女性の美容師の会話が耳に入ってきた。男性客は「俺、もうすぐヨメと離婚するかも」と言い、もう妻とは半年くらい話してないんだよね、と話しだしたのだった。深刻な感じではなく、あくまで世間話程度の軽さで、サロン中に響き渡る大声で。

「『ヨメ』って言う夫ってイヤだなー」と思いながら私は手元の雑誌を読んでいたのだけれど、そのあとがいろいろとすごかった。男性は「実は浮気がばれたんだよね」と軽い冗談のような感じで語り、「ヨメがスゲー切れて、口きかない」と言うのである。妻が切れるのは当たり前だろ、とざわざわした気持ちになるが、男性はどこか楽しげである。しかも、こんなことも言い放った。

「ヨメの立場からしたら離婚できないはずなんだけどね。専業主婦で子育てしてる30代の女が稼げるとこなんてないでしょ、離婚したら損するのはヨメのほうでしょ」

 ここまでくると会話テロされている気分である。女性にハサミで髪の毛切られている状況でよくそんな性差別発言楽しげに語れるもんだな……と顔を見てやりたい気持ちになるのを抑えながら、女友だち数人の顔を思い出した。離婚したいが経済的に自信がないと泣いた女友だち。つわりに苦しんで一日寝ていたら、「いいよな、主婦は昼寝できて」と夫に言われた女友だち。暴力を振るわれたが高収入な夫と別れるのは難しいと恥ずかしそうに言った女友だち。昔の話じゃない、ここ数年の話だ。

 コロナ禍での給付金の配られ方でもわかるが、この社会の最小単位は「個」ではなく、「世帯」である。女性が一人で生きようとすると、さまざまな壁が立ちはだかる。重くのしかかるのは経済力だ。使い捨てられる安い労働力として扱われている側の女性が、一生安定した給与を確信するのは難しい。結局、女性にとってこの社会は、男性と結婚するほうが「安全」と思わされるような建て付けになっているのだ。美容院で「世間話」をしていた男性も、それがよくわかっているのだろう。「俺がお前を食わせている、俺の自由は尊重されるべきだがお前には自由はない」。そんな立場を利用した暴力は、私たちが思う以上に世の中にあふれている。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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