水野良樹さん(撮影/写真部・高野楓菜)
水野良樹さん(撮影/写真部・高野楓菜)

 独立、コロナ禍、メンバーの脱退。予想できないような出来事が次々と起きた2年間を経験し、40歳を目前にした水野良樹さんはいま、“音楽を仕事にすること”とどう向き合っているのだろうか?

【写真】「牛」になった水野良樹さん

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 2006年のデビュー以来、数多くのヒット曲を生み出してきた音楽ユニット・いきものがかり。「帰りたくなったよ」「YELL」「ありがとう」「風が吹いている」など、代表曲のほとんどは、リーダーの水野さんが作詞・作曲を手がけている。

 2019年には実験的なプロジェクト『HIROBA』を立ち上げ、大御所から新人まで幅広いアーティストとコラボするなど、いまやJ-POPシーンの中心的な存在の一人となった水野さんは昨年末、エッセイ集『犬は歌わないけれど』を上梓。2019年春からはじまった連載(共同通信社から地方新聞社に配信されるコラム)をまとめたこの本には、事務所からの独立、コロナ禍、メンバーの脱退など、人生を左右するような出来事が続いたこの2年間の記録が赤裸々に書かれている。

■作品作りと経営はどうしても矛盾する

「たまたまなんですけど、連載が始まってから“こんなこと滅多にないよな”ということが次々と起きて。コロナによって日常生活がまったく違うものになったので、それを書き留めることにも意味があるのかなと。ほとんどの人が大きな影響を受けたと思うし、それぞれの生活と照らし合わせながら読んでもらえると嬉しいですね」

 2020年の春に所属事務所から独立し、新会社を設立。その最中に書かれたエッセイには、馴れない事務、経理の作業に追われる様子も記されている。これまでは“いい曲を作る”“いいコンサートをする”ということに集中してればよかった水野さんだが、会社の代表=社会人としての責任も求められるようになった、というわけだ。

「契約の引継ぎ、経理の確認。今は専門のスタッフがいますが、会社を立ち上げた当初は、僕がハンコを押さないといけないことも多くて、かなり戸惑いましたね。作品作りと経営はどうしても矛盾するんですよ。作り手としては“このミュージシャンに参加してほしい”“あのスタジオを使いたい”と思うけど、今はお金を払うのも自分だし、制作費をどう回収するかも考えないといけない。決済するのは自分たちなんだから、好きなことをやれるという側面もあるんですが、そのバランスは難しいですね」

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森朋之

森朋之

森朋之(もり・ともゆき)/音楽ライター。1990年代の終わりからライターとして活動をはじめ、延べ5000組以上のアーティストのインタビューを担当。ロックバンド、シンガーソングライターからアニソンまで、日本のポピュラーミュージック全般が守備範囲。主な寄稿先に、音楽ナタリー、リアルサウンド、オリコンなど。

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コロナ禍でのメンバーの脱退