写真はイメージです(Getty Images)
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 夫婦間のモラハラが近年、問題になっている。モラハラは一種の洗脳で、自分を取り戻すことは容易ではない。パートナーからの被害から逃れたのちに、かえって苦しむケースもあるという。被害者の心情を紐解いてみたい。

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 千葉県在住の会社員、Dさん(37)。現在、再婚相手である会社員の夫と夫婦二人暮らしだ。夫がモラハラ気質で悩んでいる。

 夫は家事全般に対し、細かくチェックしては延々とダメ出しをする。料理の手順や具材の切り方ひとつにも、自分の思うやり方と違えば容赦ない指摘が飛んでくる。何かにつけ、「君はどう思うの?」と意見を求められ、相手の思う内容と違った意見であれば説教が始まる。声を荒げられるようなことはないが、つい相手の顔色を伺って行動してしまう自分がいる。相手はそれを見透かしているかのように、「もっと自分を持たないと」「人に流されすぎる」と、またダメ出しが始まる。

 つらくて結婚生活から逃げたいと思うこともある。だが夫は優しい時はとても優しい。Dさんは夫との関係を改善できないか、試行錯誤している。

 実は、以前のパートナーも似たようなタイプだった。初婚は30歳の時。交際1年で同い年の男性と結婚したが、結婚から約半年後にモラハラが始まった。当時、病を患い、病院通いを続けていたDさん。治療や検査のストレスで不安感の募る中、そばにいる夫はDさんに対する気遣いのかけらも見せなかった。それどころか、Dさんが夜に「具合が悪い」とでもいうと、「だから何?」「こっちは疲れてるんだよ」「自分で何とかしろ」の一点張り。体調が悪く横になっていると、「ご飯は?」「料理もせずに何やってるんだ」「自分の体調管理もできないなんて」と追い打ちをかけてくる。そんな日々が続くうち、いつしか夫に対し恐怖心を抱くようになり、不眠が続くようになった。

 転機は、結婚から1年ほど経ったある日のこと。当時、病の影響から、歩くこともままならなかった時期に、お笑い番組を見ている夫に恐る恐る「病院に薬を取りにいってもらえないか」と頼むと、「俺に頼るな」「何で俺がやらなくちゃいけないんだ」という。体調が悪い自分を睨みつけ、またテレビに戻る夫。どうしても薬が必要だったDさんは、やっとの思いでタクシーを捕まえ、足を引きずりながら病院に向かった。ひたすらに辛くて、自然と涙がこぼれていた。

「一緒にいるのは、もう無理かもしれない」———ずっと見て見ぬ振りをしていた感情が、素直に湧き上がった瞬間だった。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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半年後に離婚は成立したが……なぜか晴れない気持ち