ケーキづくりに夢中になるみずきさん(画像=千里さん提供)
ケーキづくりに夢中になるみずきさん(画像=千里さん提供)

 みずきさんは双子の兄と一緒に通学していたが、支援学級の教室に着くと、ずっと椅子に座り固まったまま。給食を食べることができず、夕方まで水すら飲まない。

「何もできひん(できない)な、この子」

 小さい子どもの言葉ゆえ悪意はないのだが、そう言われてしまったこともあった。

「様子を見に行くと、教室で固まり続けながらも、目に涙をためていたときがありました。きっと心の中では何かをしたいって一生懸命思ってるんだと。だけど、親でもその涙の理由が何かはわからなくて、ただただつらかったです」(千里さん)

 4年生に上がると、できないことが増えていったみずきさん。そのうち、学校に行かなくなった。

「毎日、症状がよくならないかなと思いながら過ごしてきて……。何をしてあげたらいいのかがわからなくなりました」

 親なりの工夫を続けても前に進めない。母の心も病んだ。朝起きると、勝手に涙が流れ出ている。そんな毎日が続いた。

 転機は突然だった。

 学校に行かないみずきさんが家で退屈しないようにスマートフォンを買い、何か興味を持ってもらえないかとアプリを入れた。

 みずきさんは、料理のレシピが載っているアプリに興味を持ち、その中でも特にお菓子作りにハマった。

 千里さんが材料を買ってくると、すすんでお菓子を作るようになった。「友達に食べてほしい」。自宅に引きこもっている時間を楽しんでいるみずきさんの姿に、千里さんも気づきを得た。

「学校に行かせて、半日近くも動けない時間を過ごさせていたことを後悔しました。同時に、みずきの人生を何か定まった道に当てはめなくてもいいんだと初めて気づきました。娘の人生の時間の使い方を考えよう、そう気持ちが変わりました」

 みずきさんはお菓子作りを始めると、ひたすら没頭する。ほぼすべてがインターネットから情報を得ての独学なのだが、家族が驚くほどの出来栄えとおいしさだった。そのうち自らインスタグラムにケーキやお菓子の写真をアップするようになった。

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「いつか自分の店を持ちたい」