定期運行終了と引退が決まった50000形VSE(提供:小田急電鉄)
定期運行終了と引退が決まった50000形VSE(提供:小田急電鉄)

 2004年秋頃に登場し、05年3月19日にデビューした小田急電鉄(以下、小田急)のロマンスカー・50000形VSE(「Vault Super Express」の略)が、22年3月12日のダイヤ改正で定期運行を終了し、23年秋に引退する。予定通りなら、登場からわずか19年で引退する50000形VSE。この車両が多くのファンの人気を博した理由と、引退が決まった意外な「背景」を読み解く。

【写真】わずか16席!「50000形VSE」の極上空間はこちら

■原点回帰の特急ロマンスカー車両

 50000形VSEは“特急ロマンスカーの原点回帰”といえる車両だ。

 1987年に登場した10000形HiSE(「High Decker High Grade High Level Super Express」の略)以来、17年ぶりに展望室が復活。先頭車のみわずか16席の極上空間は、プラチナペーパーと化した。

 このほか、運転士が鳴らすと心地よいメロディーが流れる補助警報音、車両と車両のあいだに台車を配した連接構造、カフェカウンターも復活した。

カフェカウンターには天窓があり、鉄道車両における“非日常感”を演出している(提供:小田急電鉄)
カフェカウンターには天窓があり、鉄道車両における“非日常感”を演出している(提供:小田急電鉄)
サルーンは3部屋用意されている(提供:小田急電鉄)
サルーンは3部屋用意されている(提供:小田急電鉄)

 特にカフェカウンターはかつて「喫茶カウンター」と称し、オーダーすると販売員が座席まで届けてくれる「オーダーエントリーシステム」によるデリバリーサービスが行われた。人々からは「走る喫茶室」と呼ばれ、称賛を浴びた。ロマンスカーでは、1995年3月から効率重視に転換し、ワゴンサービスに変更されていたが、50000形VSEのみ“往年のサービス”がよみがえったのだ。

 50000形VSEの車両は、新宿―箱根湯本間運転の特急ロマンスカー<はこね><スーパーはこね>に限定して運用され、観光客輸送に特化した。また、元日のみ新宿―片瀬江ノ島間運転の臨時特急ロマンスカー<ニューイヤーエクスプレス>にも起用され、“1年に1度のお楽しみ”として親しまれた。

■外部のデザイナーを起用

“特急ロマンスカー車両の原点回帰”である一方、小田急は50000形VSEで新たな挑戦をする。車両のデザインを「岡部憲明アーキテクチャーネットワーク」に依頼したのだ。主宰の岡部氏は、関西国際空港のターミナルビルなどを手掛けた建築デザイナーだ。

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