渋沢健
渋沢健

 例えば、鉄鋼の生産技術の発展により機関車の線路を安価に敷くことができて、それまで考えられなかった規模のモノや人を陸路で移動できるようになっていました。このような当時の技術展開で、交易の面でも、生活の面でも、大きなゲームチェンジがあった時代です。

 20代後半の時に渋沢栄一は明治維新、日本のグレートリセットを迎えて明治、大正、昭和というニューノーマルの時代において数多くの功績を築きました。そんな渋沢栄一は、どのような心構えや生きざまで社会変革に適応したのか、また、その変化の一歩二歩、先に歩んで新しい時代を導くことができたのか。

 渋沢栄一が残してくれた言葉を通じて、その思想は我々が現在の時代の変化においても活用できると考えます。この「イノベーション」のマインドセットが渋沢栄一の魅力ではないでしょうか。

 しかしながら一方で、人間は変化を避ける傾向もあります。今までやって来たことが変わることで、我々は不安を抱くからです。したがって、もうひとつの渋沢栄一の魅力の側面があると思っています。それは、どのような時代でも通じる普遍性です。

 その普遍性が、道徳でありましょう。どの時代でも、どのような技術で世の中が激変しても、人と人の間で通じるものが求められます。

 渋沢栄一は唱えました。「ぜひ一つ守らなければならぬことは、前述べた商業道徳である。約すれば信の一字である。」(【論語と算盤】道理ある希望を持て)

 インターネットやAIなど新しい時代の新しい技術が生活や仕事のあり方を変化させているからこそ、信用や信頼の必要性が増すのです。

 ただ、道徳と商業、つまり「論語」と「算盤」は一見相容れない関係性に見えます。道徳的な人物は金儲けなんて考えては駄目ですし、商業が慈善活動になってしまうと金儲けができない。

 しかし、栄一は「論語か算盤」ではなく、「論語と算盤」を貫いた人生を送ったのです。それは、偉人渋沢栄一だから相容れない関係性を合わせることができたのでしょうか。

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カレーうどんを創った民族