映画『ダーク・ウォーターズ』(C) 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.
映画『ダーク・ウォーターズ』(C) 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

 12月17日公開の映画『ダーク・ウォーターズ』は、一本の記事から生まれた。

【写真】主人公のモデルになった弁護士はこちら

<デュポンのこれ以上ない悪夢となった弁護士>

 2016年1月6日付のニューヨーク・タイムズ紙はそんな見出しを掲げて、ひとりの弁護士の物語をつづった。米大手化学薬品メーカーのデュポンによる環境汚染を突き止め、健康被害を負った原告たちを率いて法廷闘争をつづける姿を紹介するものだった。

 どんなに壁が高くても、大切なものを失いかけても、ひとりで挑む――。その姿に深く心を動かされた俳優のマーク・ラファロが主演・プロデュースして映画が生まれた。主人公のモデルとなったロバート・ビロット弁護士がインタビューに応じた。

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――そもそも、なぜこの問題にかかわることになったのですか。

「きっかけはある農夫が訪ねてきたことでした。『牛たちが次々に死んでいる』と言って、ビデオテープに収められた牛たちの無惨な姿を見せられたんです。とんでもないことが起きているとわかって、動かなければ、と。しかも、彼が住んでいるのは私の故郷でもある町でした。1990年代終わりのことです」

 ――勤務先は企業弁護を専門とする法律事務所だったのに、なぜ個人の依頼を受け、しかも大企業に刃向かう決断をしたのですか。

「まさか、このような争いになるとは想像していませんでした。汚染源がわかれば、簡単に解決できると思っていたのです」

 ――でも、牧場近くに廃棄物処理場をもっていたデュポンは責任を認めなかった。

「そうです。責任を認めないどころか、牛の飼育に問題があったというのです。農夫の代理人弁護士として訴訟を起こし、裁判所から文書提出命令を出してもらいました。デュポンの内部文書は、11万ページにも及び、段ボールで部屋が埋まるほどでした。古くは半世紀近く前のものもありました。1枚ずつ目を通して時系列に並べ、見慣れない単語を調べ、専門家にたずね……。化学の分野に門外漢の私は手探りで、その作業を繰り返していきました」

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デュポン社との闘い