※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 多くの研究から、それぞれのがんに対してどの治療法をどういう順番で行うか決まっています。悪性黒色腫の場合、がん免疫療法を最初に行う場合が多く、これが効かなかった場合は2番目に違う種類のがん免疫療法を行う、というような指標があります。いわゆるガイドラインと呼ばれるものです。何番目の治療法まで確立されているかはがんの種類によって異なり、悪性黒色腫は2番目までの標準治療がガイドラインに記載されていますが、大腸がんなどは5番目の治療法まで準備されています。

 さて、十分に研究された治療法が標準治療となるわけですが、ガイドラインに載っているすべての治療法を使い切ってしまった場合どうするのでしょうか?

 がんを叩く治療を続けるか、やめるか、患者さん本人やご家族はつらい選択をしなくてはいけません。この選択は究極的には死を受け入れるかどうかになるわけで、死を受け入れられる人なんていません。多くの医者も同じように苦しみます。

 しかし、患者さんの状態が悪く、これ以上治療を続けてしまったら逆に命を縮めてしまう場合もあります。この場合は、医者としてがんを叩く治療をやめることを選びます。悩みつつも冷静な判断をしなくてはいけないのが医者だからです。

 一方、全部の治療法が終わってもまだ体力的に余力がある患者さんもいます。そういう人たちにはがんゲノム医療という選択肢が残されています。がんゲノム医療とは、胃がんや皮膚がんなどがんができた臓器に関係なく、その患者さんが持つがんそのものの特徴にあわせて治療法を選ぶ方法です。

 例えば、悪性黒色腫の患者さんの中には胃がんのひとつであるGISTに似た性質をもつものもあります。がんゲノム検査を行い、その患者さんの悪性黒色腫がGISTと似た性質を持っているとわかれば、GISTに対する抗がん剤が効く可能性があります。

 大きな集団の研究では見つけ出せなかった治療法が、個別にがんを調べることでがんの種類を超えて治療法を選ぶことができるようになるのががんゲノム医療です。がんゲノム医療は将来が期待される治療法ですが、非常に専門性が高いため、できる病院とできない病院があります。まずは主治医に相談してみると良いでしょう。

 今回はがん治療全般に関してまとめてみました。がん研究は日進月歩です。数年で治療法が大きく変わることもあります。私たち医師も日々知識をアップデートしていくことを忘れてはいけません。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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