早稲田大学教育・総合科学学術院の濱中淳子教授(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
早稲田大学教育・総合科学学術院の濱中淳子教授(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)

「日本の総合職採用と違い、アメリカは特定の仕事をやってもらう人を採用するジョブ型採用が標準です。そのため企業は、仕事に関連する修士号や博士号を、一つの資格のように見て採用する傾向があります。また雇用される側も、仮に今の仕事よりも条件のいいところが見つかれば、学位を生かして転職しようという行動がしやすくなります」

 もう一つが大学教育の中身の違いだという。

「学部と大学院の位置づけにも大きな違いがあります。日本では学部の段階である程度専門領域が分化していますが、アメリカでは多くの場合、リベラルアーツ教育を4年間受け続けます。言い換えれば、学部卒の時点では専門教育が不十分。そのため大学院に進学して専門を学ぶことの効果が大きく、学部卒との違いが可視化されやすい、という背景もあると考えられます」

 人文・社会科学における修士号取得者数を人口100万人当たりの人数で国際比較した2018年のデータがある。これによると、アメリカは37万5953人、イギリスは13万4975人、韓国は3万9886人に対し、日本は1万4479人と先進国の中で圧倒的に少ない(文部科学省 科学技術・学術政策研究所『科学技術指標2021』)。

■大学院卒の面接官ほど大学院の学びを評価

 文系大学院卒の就職を巡る状況について、早稲田大学教育・総合科学学術院の濱中淳子教授はこう話す。

「そもそも文系大学院卒が少なくて、どのような人なのか平均像が見えてこないという状況があると思います。大企業でも大学院卒の大半は理系で、文系はごく少数。数人いる文系大学院卒の社員がもし優秀だったとしても、大学院を出たから優秀なのか、その人がたまたま優秀なのか、人数が少なくて評価しにくい。逆にもしその数人が優秀でなければ、『文系の大学院卒は使えない』といった評価になってしまいがちです」(濱中教授、以下同)

 濱中教授は2014年、企業の採用面接担当者2470人を対象に、大学院に進学したか、大学で熱心に勉強してきたかなどの経験によって学生への評価が変わったかどうかを調査した。

「事務系総合職として雇いたいと思う人材が文系修士課程の学生に多い」と思うかを聞いた結果、文系学部卒の面接担当者では46.8%だったのに対し、文系修士卒の面接担当者では62.9%、文系博士卒では78.1%がそのように思うと答えたという。

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面接官に専門知識がなければ評価は難しい