現に、1990年前後の不動産バブル期に高騰した価格で家を買い、30年ほど経った今、その物件を売ろうとしているケースでは、購入時の価格の3分の1~半額以下になることも多いと言う。前出の長谷川さんも、こう続ける。

「私のところに相談に来られる60代前後の方も、『あの時あんなに高い金額で買ったのに、これっぽっちの金額でしか売れないなんて……』と肩を落とす人は多い。資産価値を見込んで買ったとしても、この先絶対に価値が下がらないとは誰にも言えません」

写真はイメージです(Getty Images)
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 さらに新築マンション価格の高騰の裏で、少しでも価格を抑えるための手段として、面積を狭くし、設備をチープ化している物件が数年前と比べて多く見られるのも、今の傾向だという。

「例えばスロップシンク(バルコニーなどに設置されている流し)やアルコープ(共用廊下から各住戸の玄関部分までの空間)など、数年前まではマンションの標準設備として比較的多く存在していたものが、今の新築マンションではなくなっているケースがよく見られます。“建物全体の顔”であるメインエントランスは、かなり豪華な仕様にしているものが多い一方で、専有部分はチープ化が進んでいる。この傾向から見ても、単に“新築であること”に惑わされず、しっかり物件を見極めることがより大事になってきています」(後藤さん)

 もちろん、個々の条件によっては資産価値を維持できる可能性の高い新築マンションもある。大切なのは、「このまま超低金利時代が続くはず」「資産価値が絶対に下がらないはず」「70歳まで働けるはず」などと、先々を楽観的に考え過ぎて動かないことだ。先行き不透明で不安定な時代、「住宅ぐらいは確かな資産価値であってほしい」と願う声も理解できる。だが、人生100年時代、いつ何が起こるか分からない。

 会社員でも億ション購入が夢じゃない時代。多額のローンを抱える前に、今一度リスクを想定したシミュレーションを練ってみてはどうだろう。(松岡かすみ)

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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