そういう意味では、新しい資本主義には新しい企業価値の定義が必要です。カーボン・ゼロ社会の実現に邁進している企業、人権を尊び搾取をサプライチェーンから排除し、適切な賃金を支払っている企業、地球の生態を守り、世界の人々の健康な暮らしを支える企業は、明らかに価値があります。

 ただ、この価値は必ずしも財務的な測定だけでは可視化できていない場合もあります。企業の非財務的な情報開示に留まることなく、社会的インパクトや環境的インパクトの意図を可視化する測定(メジャーメント)の検討・実践が今後、展開されるべきだと思います。

 例えば、米ハーバード大学ではImpact Weight Account Initiativeという、財務的な(見える価値)を計上する企業会計に、非財務的な(見えない価値)である社会・環境インパクトも計上する研究が始まっています。

 もし、このような会計制度が導入されるようになると、吉となるか、凶となるか。日本企業の行方が分かれるでしょう。ただ、「新しい資本主義実現」には、新しい企業価値を測定する、新しいメジャーメントが必要になることは確かです。

 一方で、「新しい資本主義」を都合よく解釈して、現状維持に甘んずることは断じて回避しなければなりません。「三方よし」は素晴らしい概念ですが、それが、日本人だけに通じるものに留めてはならず、世界との共通言語化が必要です。その役割を果たせるのが、インパクト・メジャーメントでないかと考えています。

 渋沢栄一は、当時の日本企業に期待を抱いていました。

 「いまや武士道は移してもって実業道とするがよい。」

 「日本人はあくまで大和魂の権化たる武士道をもってたたねばならぬ。」

 一見、グローバルな感じがしません。ただ、若き渋沢栄一は尊王攘夷という鎖国の思想に影響されていましたが、開国論に転じて社会を変革した人物です。

 栄一が考えていた武士道の要とは以下を「加味した複雑な道徳である」と提唱しています。

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渋沢栄一が示した道徳