EXIT兼近大樹(GettyImages)
EXIT兼近大樹(GettyImages)

 EXITの兼近大樹という芸人のことは、良くも悪くも「純粋な人だな」と思っていた。EXITは服装も言動もひたすら軽いノリの「チャラ男キャラ」で世に出てきた。だが、チャラいキャラが認知されるのとほぼ同時に「実は真面目」という素顔の方にもスポットが当てられた。

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 特に、兼近は酒も飲まないしタバコも吸わない。恋愛経験も少なく、ベビーシッターのアルバイトをしていたこともあり、子ども好きの一面もある。

 彼らはそのチャラい外見とは裏腹に「コンプライアンスゴリ守り芸人」を自称していた。2人とももともと組んでいたコンビの相方が不祥事を起こし、解散を余儀なくされた過去を持っているため、芸人として真面目に仕事をすることの重要性を身にしみてわかっている。

 EXITはファンを大事にすることでも有名だ。お笑いのDVDは通常なら3000円台で売られることが一般的だったのだが、彼らは自分たちのライブDVDを税込1000円という驚異的な低価格で販売した。儲けを少なくしてでも、多くの人に気軽に買ってもらいたいと考えたからだ。

 2019年にはパシフィコ横浜で観客5000人を集めて単独ライブを行った。宙づりで登場したり、舞台上から派手に炎が上がったり、お笑いライブの常識を超えた演出の数々で観客を魅了した。
こうした型にはまらない活動が評判を呼び、彼らのファンは順調に増え続けている。ジャニーズ、LDH、2.5次元といったほかのジャンルのファンが流れてくるケースも多い。

 また、兼近は既存のルールや常識に縛られず、社会問題やお笑い業界の話題についても積極的に意見を発信している。吉本芸人の闇営業騒動が起こったときにも、自身のツイッターで「チャラ男なのでこれで変わらない会社ならとんじゃうよーー」「会社から芸人にしっかり説明求む!」などと事務所に対して率直なメッセージを出していた。自身の所属事務所の不祥事に関しても、悪いものは悪いと断じるその姿勢は勇敢であり、ちょっと危なっかしくもあった。

 そんな兼近が10月27日に初めての小説『むき出し』(文藝春秋)を出版した。タイトル通り、彼の内面がそのままむき出しになったような作品である。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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兼近の純粋さが伝わる「良質な文学作品」