駅のホームとは時に「舞台」じゃないか、と思うことがあります。登場人物はばらばらですが、群像劇を見ているような気分ですね。イタリア・ベネチア・メストレ駅(撮影:大木茂)
駅のホームとは時に「舞台」じゃないか、と思うことがあります。登場人物はばらばらですが、群像劇を見ているような気分ですね。イタリア・ベネチア・メストレ駅(撮影:大木茂)

 写真家・大木茂さんの作品展「ぶらりユーラシア」が11月11日から東京・新宿のオリンパスギャラリー東京で開催される。大木さんに聞いた。

【大木茂さんの作品はこちら】

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 インタビューの冒頭、ずっしりと分厚い本を手渡された。

「読み応えがありますよ。528ページ。文庫本3冊ぶんくらいある」

 それは大木さんが今年7月に出した著書『ぶらりユーラシア』(現代書館)。サブタイトルには「列車を乗り継ぎ大陸横断、72歳ひとり旅」とある。

 旅に出発したのは2019年8月25日。極東ロシアのワニノ駅からスタートして、ポルトガルのカスカイス駅まで、つまり、ユーラシア大陸の東端から西端の駅まで78日間、46本の列車を乗り継いで、約2万2000キロ、17カ国を訪れた。個展ではその旅の作品を展示する。

間宮海峡を望むロシア・ワニノの街。天気がよければ美しい海を見ることができるのですが残念ながら小雨です。この街から「大陸横断列車旅」が始まります(撮影:大木茂)
間宮海峡を望むロシア・ワニノの街。天気がよければ美しい海を見ることができるのですが残念ながら小雨です。この街から「大陸横断列車旅」が始まります(撮影:大木茂)

■「シベリア鉄道って、つまらないんだよ」

 壮大な鉄道旅に出発する前、大木さんは数年かけて、極東ロシアや中国、中央アジアへ予行演習の旅を繰り返した。

 極東ロシアへは、サハリンに渡り、タタール海峡(間宮海峡)を越え、そこからロシア鉄道の旅が始まるのだが、そのきっかけは意外なものだった。

「ぼくは映画のスチール写真を撮っていて、ここ20年くらい吉永小百合さんの映画は松竹以外、ぼくがほとんど撮影しているんです。そのひとつが『北の桜守』(2018年)で、舞台がサハリンだった。でも、稚内でロケセットを組んで撮影してね。これは吉永さんの代わりにサハリンに行かなきゃいけないな、と。行くんだったら、バム鉄道(第二シベリア鉄道)に乗ってやろうと思った。それが、ここを訪れた最初なんです。17年9月のことです」

 さらに翌年1月末に同じ場所を訪れた。「そして、3回目が今度の(本番の)旅」。

 しかし、今回なぜ、シベリア鉄道に乗ってヨーロッパを目指すのではなく、わざわざ極東ロシアから南下し、中国、中央アジアを経由して西へ向かうルートを選んだのか?

「シベリア鉄道って、つまらないんだよ。言ってみれば、北緯50度から55度の新開地に鉄道を通しただけなんだ。それに乗ると、1週間でモスクワまで行けちゃう。何もしないで」

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