亮介さんが自信を持てない大きな理由のひとつは、「強迫行為」と思われる自身の行動に若いときから悩まされてきたことも大きい。強迫行為とは、無意味で不合理であると自覚しながらも、意志に反して、一定の行為を繰り返してしまうことをいう。亮介さんの場合は、スマホのスクロールなどを延々と続けてしまうことがよくある。ひたすら歩くことがやめられなくなったり、電車で降りる駅に着いてもまた引き返してしまい、乗り続けてしまったりすることもあるという。

写真はイメージです(Getty Images)
写真はイメージです(Getty Images)

 もうひとつの悩みは、子どものころから、授業の内容が頭に入らなかったり、人から何か言われても「流れてしまって」理解できなかったりすることだ。テレビを観ていても、言葉が頭に入らないので楽しめない。

 お店で品出ししているときにも、たまに客から突然話しかけられると焦ってしまう。「こういう商品が欲しい」と言われても、あまり内容を理解できないので、すぐに担当者を呼びに走る。

 友達はいない。子どものころ仲良くしていた友達にも、「こんな自分と話しても楽しくないだろうと思って」連絡できずにいる。

 思い切って心療内科を受診してみたこともある。医師に、「一度ちゃんと検査をしてみては」と勧められたが断った。もし「発達障害」などが検査によって明らかになれば、障害者枠での就職の可能性や公的な支援があることもわかっているが、自分がその事実と向き合うことができるのか、よくわからない。

「今も、生きているのはつらいです」と亮介さんは言う。

 実は、社会生活へ踏み出すことができても、亮介さんのように「生きづらさ」を抱えるひきこもり経験者は実は少なくない。

 たとえば、今年6月に刊行された「ひきこもり白書2021」(一般社団法人ひきこもりUX会議)で紹介されている調査結果。2019年秋に実施した調査で、6歳~85歳、北海道から沖縄まで全都道府県から1,686名ものひきこもりや生きづらさを抱える人々が回答している。「あなたは生きづらさを感じたことがありますか」という設問に対して、「過去にひきこもりだったことがあり、現在はひきこもりではない人」のうち、「現在生きづらさを感じる」と答えている人は80.7%にのぼっている。

◆ 人が、居場所になる

 社会生活を送るうえで、不安や悩みは相変わらずある。けれど、亮介さんは少しずつ確実に前進しているようだ。取材でも、回を重ねるごとに表情が豊かになり、会話がスムーズになってきたのを感じた。

 何よりも、亮介さんにはいくつもの「居場所」がある。

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