佐川宣寿・元国税庁長官(撮影・西岡千史)
佐川宣寿・元国税庁長官(撮影・西岡千史)

「財務省で事実を徹底的に調査し、自らの非を認めた調査報告書を取りまとめています。検察の捜査も行われ、結論が出ています」

「本件については、これまでも国会などにおいて、さまざまなお尋ねに対して説明を行ってきたところであると承知をしており、今後も必要に応じてしっかり説明をしてまいります」

 要するに、安倍政権、菅政権と同じ。「調査は尽くした。問題はない」を繰り返し、最後は「裁判中なので」と逃げる。再調査を行う気がかけらもないことはよくわかった。ところが雅子さんの感想は少し違った。

「岸田さんの答弁は言葉が丁寧ですね。そこが安倍さんや麻生さんとは違います。内容はゼロ回答なんだけど、何だか今後に期待できるような気がしてしまいます」

 だから、代表質問が終わった後の報道各社の取材でもこう答えている。

「再調査にむけて前向きな返答を頂けなかったことは、本当に残念です。だけど(岸田総理の)考えが変わる時がくるんじゃないかと思うので、期待してまだ待っていようと思いました」

 雅子さんの手紙は議場の議員たちの心も揺さぶったようだ。内容に「胸を打たれた」という声が、与野党双方の議員から辻元議員に寄せられている。手紙のことは報道で知っていても内容まで詳しく知らない議員がほとんどで、「全文を読み上げてもらってよかった」とも言われたという。

◆赤木雅子さんと会い、うつむく財務省職員

 偶然ってあるものだ。取材対応が終わると、赤木雅子さんはとある用事で都内のある建物のエレベーターに乗った。乗り合わせた5人の男性の首から身分証が下がっている。それを見て雅子さんは気づいた。

「この人たち、財務省の人たちだ」

 そこで雅子さん、彼らに向き直るといきなり「すみません、皆さん財務省の方ですか?」と問いかけた。戸惑いながらも「ええ」と答える男性たち。すると雅子さんが笑顔で踏み込んだ。

「私の夫も財務省に勤めていたんですよ」

赤木俊夫さん(筆者提供)
赤木俊夫さん(筆者提供)

 筆者は横で見ていて「ここで寸止めするんだろうな」と思った。だがそれは甘かった。最後にとどめの一撃が。

「夫は亡くなったんですけどね。3年半前に」

 これで彼らも、目の前にいる女性が誰か、はっきりわかっただろう。返事もなく、うつむきながら、先にエレベーターから降りていった。

 翌12日、雅子さんの代理人弁護士のもとに、財務省近畿財務局から文書が届いた。8月に雅子さんが提出した情報開示請求に対する回答だ。裁判の資料とするため、財務省が改ざんの調査報告書をまとめる際に使ったすべての文書と、事件の捜査で検察庁に提出したすべての文書を開示するよう求めていた。

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