なお、トラウマ体験をした後、上記のような症状は多かれ少なかれ、誰にでも起きる。しかし、数日から数週間でよくなる場合は急性ストレス反応(ASR)として、PTSDとは区別されている。

 PTSDは性被害などトラウマ体験が重いものほど起きやすい。このほかトラウマ体験の最中に「からだが動かなくなる」「感情がなくなってしまう」など解離(耐えられないほどのつらい出来事を生き延びるために起きる反応。記憶や感情を脳が切り離す。このために記憶を失ったり、自分が自分でないように思えたりする)の症状があった場合や精神疾患がある人、子どものころに虐待を受けたなど成育環境が恵まれなかった人などで発症リスクが高いことが明らかだ。

■うつ病などほかの精神疾患と合併も

 PTSDの詳しい原因は研究段階だが、脳の記憶の処理のメカニズムに不具合が起こっている可能性が指摘されている。PTSD患者の脳画像を研究した調査では、恐怖を感じる扁桃体の興奮と興奮を抑える前頭前皮質の機能低下が確認されている。また、記憶の出し入れを担っている海馬の機能異常もみられるという報告がある。

 PTSDの特徴として、さまざまな精神疾患と合併しやすいことも知られている。最も多いのがうつ病で、このほか適応障害、アルコールや薬物依存症、パニック障害、強迫性障害、双極性障害などがある。

 大阪医科大学看護学部教授の元村直靖医師はこう言う。

「うつ病と診断され、よくならないと紹介されてやってくる患者さんに詳しく問診をしていくと、PTSDが見つかるケースが少なからずあります。うつ病治療だけでよくならない場合、再度、診断を受けることも一考でしょう」

 PTSDの中には解離症状(前出)や、自傷行為などの症状が強く出る人もいる。家庭内暴力や虐待など、子どものころから持続的に受けたトラウマ体験が引き金になる「複雑性PTSD」というタイプに多く、正しく診断されるまでに時間がかかることが多い。

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