JR大宮駅、上りのエスカレーターでは、右側を歩行する人も多く見られた。(撮影/編集部・國府田英之)
JR大宮駅、上りのエスカレーターでは、右側を歩行する人も多く見られた。(撮影/編集部・國府田英之)

 埼玉県で、全国初となるエスカレーターに立ち止まって乗ることを求める条例が10月1日から施行された。罰則はない。台風が近づき雨となった初日の朝、通勤客らでごった返す駅では、これまでと変わらず「左側立ち、右側空け」の光景が見られ、歩行する人も目立った。「急いでいる出勤時くらいは大目に見てほしい」と本音を漏らすサラリーマンらもいるなど、定着するかは不透明だ。

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 複数の路線が乗り入れるJR大宮駅。通勤・通学客らでごった返す1日の朝。駅構内や駅の外につながるエスカレーターの様子を見ると、大半の人はこれまでと変わらず左側に立ち、右側はきれいにあいていた。 そして、その右側を歩いて登っていく人も多く見られた。子ども連れの女性が2列に並んで立ったが、後方から歩いてくる男性に気を使ったのか、子どもも左側に寄った。

 駅の外につながるエスカレーターを歩いて降りてきた男性会社員(44)に聞くと、

「条例? 知ってますけど、みんなが急いでいる朝くらいは大目に見てもらいたい。小さな子どもや高齢者はそんなにいない時間だと思いますし、危ないとも思いません」

 と話し、先を急いだ。同様に歩いた50代のパートの女性も「今までどおり歩いただけというか……注意して歩けば問題ないと思います。罰則もないのに、みんなが慣れていることを急に変えるのは無理じゃないですかね」

■「罰則ないなら意味がない」の声

 一方で、条例に肯定的な意見の人もいた。

「電車の本数も多く、そこまで急がなくてもと思うことはある。本人次第で守れるルール」(30代女性)

「歩かれると困る人がいるのなら、やめてあげてほしい」(17歳男子高校生)

 また、「右側に立つこと自体が勇気がいるので、わざわざやろうとは思わない」(20代男性)と、習慣を変えることを躊躇する声もあった。

 県にもこれまで、条例化を喜ぶ声がある一方で、「罰則がないなら意味がない」「エスカレーターの歩行より歩きスマホを規制するべきだ」など、様々な声が寄せられているという。

 業界団体の日本エレベーター協会によると、そもそもエスカレーターの安全基準は歩くことを想定して作られていない。ステップにある黄色い枠内に立って、手すりをつかんで進むのが本来の乗り方だ。

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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