東京女子医科大学病院血液浄化療法科教授の土谷健医師
東京女子医科大学病院血液浄化療法科教授の土谷健医師

 コロナの第5波では、入院ができずに自宅療養となる患者があふれ、医療は逼迫した。こうした中、感染した人工透析患者がすぐに入院できないケースが多発した。透析患者はコロナにかかると重症化しやすい。一方で、透析をしながらの入院となるため、専用の病床は非常に少ない。現場の医師にとって、緊迫した事態が続いた。

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 東京都在住の男性(70代)は慢性腎臓病(CKD)が進行し、5年ほど前から都内の透析クリニックで人工透析(血液透析)を受けている。通院で月・水・金の週3回、1回4時間余りの治療になる。

 8月のある月曜日。東京オリンピックの最中で、朝から気温が高かった。

 少し熱っぽさを感じたが、暑さのせいだと思っていた。ところが受付で検温をすると37.8度ある。

 コロナを疑われ、施設への入室をストップされた。人工透析の施設は一つの部屋で複数の患者が同時に治療をおこなう。コロナの患者が入室すると、感染のリスクが高く、クラスターとなる可能性があるからだ。

 男性は発熱患者用の別室でPCR検査を受けた。判定は翌日で、コロナ陽性と判定された。

 腎機能が失われている患者にとって透析は命綱だ。透析ができない期間が3日以上あくと老廃物や毒素がからだにたまり、生命の危機に陥る。一方、慢性腎臓病である透析患者はコロナに感染すると重症化しやすく、死亡率が高いことが知られている。

 急激に患者数が増えた年初の第3波では、透析患者の死亡率が20~30%におよんだ。第4波では北海道内で透析患者100人以上が罹患し、そのうち約半数が命を落とした。ワクチンが普及した第5波は大幅に低下したが、それでもこれまでの感染者数から算出すると16%と高率だ。

 つまり、この男性には人工透析とコロナ疑いの対応の両方をおこなう必要があった。そこで関連施設である東京女子医科大学病院に入院を依頼した。

 しかし、この日、同院のベッドは満床だったという。

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