「笑ったら叩かれる」というのは、ルールがシンプルでわかりやすい。そして、いまやお笑い界の権威となったダウンタウンの2人が尻を叩かれて悶絶していると、それだけでおかしく見える。

 この企画の核心は「笑ってはいけない」という単純明快なルール設定にある。人は笑ってはいけない状況に陥ると、ちょっとしたことで笑いがこらえきれなくなってしまったりするものだ。レギュラー陣が叩かれまいと必死で笑いをこらえたり、こらえきれずに吹き出したりする様子を見て、視聴者の方も思わず笑ってしまうことになる。

 もともとこの特番のベースになっている『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』では、笑いをこらえるルールが課された企画が行われてきた。

 たとえば、「七変化」という企画では、真面目な会議中に芸人が意味もなくさまざまな変装をして登場する。会議に参加するメンバーは、それを見て笑ってしまったら罰金を支払わなくてはいけない。

 また、「サイレント図書館」という企画では、静かにしなくてはいけない図書館というシチュエーションで、メンバーが一斉にカードを引いて、運悪く選ばれてしまった人が過酷な罰ゲームを受ける。それを見たほかのメンバーは笑うのを我慢しなくてはいけない。

『笑ってはいけない』シリーズの発案者でもある松本は、誰よりも貪欲に新しい笑いの可能性を追い求めてきた。だからこそ、「笑いをこらえなくてはいけない状況は面白い」という真理にたどり着き、そこから斬新な企画を次々に生み出すことができたのだ。

 長年にわたって多くの日本人を笑わせて大みそかを盛り上げてきた『笑ってはいけない』シリーズに対しては、終わってしまって残念だというよりも、「今までありがとう」という感謝の言葉を捧げたい。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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